著作者で教師、コンサルタントのGerald M. “Jerry” Weinberg氏が、2018年8月7日、84歳で亡くなった。氏の死去のニュースは、Sue Petersen氏のFacebookで発表された。健康状態の悪化は氏が以前から伝えられていたが、死去は予想外のことだった。Jerry Weinberg氏は、Dani Weinberg氏と結婚している。
Weinberg氏は1956年、応用科学者としてIBMに入社した。その後、米国で初めての宇宙飛行計画であるProject Mercuryで、オペレーティングシステム開発マネージャに就任した。1975年にはDani Weinbergと共に、自身のコンサルティング会社であるWeinberg&Weinbergを立ち上げている。
1974年、氏はDani Weinberg氏とTechnical Leadershipワークショップを企画、実施した。これが後に、創造的な思考と行動をリーダに指導する問題解決リーダシップ(PSL)へと発展している。氏は長年にわたって、多くの優秀なコンサルタントやトレーナと協力してPSLを指導してきた。最近では、Esther Derby氏やJohanna Rothman氏とコラボレーションしている。健康状態の悪化した2017年、氏とDerby氏はDon Gray氏に、PSLを継続するための参加を依頼している。
1980年代半ばからは、家庭セラピストであるVirginia Satir氏の主催する1ヶ月間のワークショップに参画するようになった。この活動は、1988年にSatir氏が亡くなるまで、毎年続けられている。Jerry Weinberg氏のその後の仕事の多く、特にJean McClendon氏と共同で企画、推進した、PSL卒業生を対象とする1週間のCongruent Leadership Change Shopワークショップには、Satir氏の教え方が取り入れられている。
2000年には、最初のAmplify Your Effectiveness(AYE)カンファレンスが開催された。同カンファレンスは、対人関係スキルの開発に重点を置いた体験型ワークショップで、明示的かつプライドを持ってPowerPointのスライド使用を禁止していた。このカンファレンスは2012年まで開催されている。
氏は自身の著作として、およそ100冊の書籍を出版している。ベストセラーとしては、“The Psychology of Computer Programming”, “An Introduction to General Systems Thinking”, “Becoming a Technical Leader”, “The Secrets of Consulting”がある。著作の大部分は現在も発行されており、LeanpubのGerald M. Weinberg氏の著作ページで紹介されている。
Fiona Charles氏の編集によって2008年に出版された書籍“The Gift of Time”は、Jerry Weinberg氏の誕生日を祝う、さまざまな分野のコンサルタントやマネージャによるエッセイ集である。Charles氏は言う。
Jerryの75歳の誕生日の贈り物として“The Gift of Time”を思い立ったのは、彼が大きな功績を残してきた分野に対して、特別な意味のある貢献をしたかったからです。Jerryの友人の中から彼の業績を代表するテーマやコンセプトに関わる仕事をしている著作者を選んで、彼と彼の作品が自身の作品にどのような影響を与えたかを説明する紹介文を含むことを条件に、自由な主題でエッセイを書いてくれるように依頼しました。さらに2つのコントリビューションは、Robert Glass氏が書いてくれた彼の経歴に関する部分と、彼とその人生のパートナであるDani Weinberg氏の生活と功績についてのエッセイでした。
完成した本を見たJerryの反応は、私や他のコントリビュータが望んだとおりのものでした。彼は私に、自身のキャリアで得た多くの賞の中で、“The Gift of Time”は最も重要な“賞”だ、と言ってくれました。彼が最も感銘を受けたのは、思想体系と実践の真の統合として、彼のキャリアが表現されていたことでした。
チームの雰囲気に影響する要因について調査していた2014年、InfoQはWeinberg氏を訪ねて、個人の感情がチームの作業に与える影響についての氏の考えを聞くとともに、個人の感情への影響が倫理的に妥当なのかを尋ねたことがある。
倫理的に妥当かどうかは問題ではありません。意図したものかどうかに関わらず、コーチはチームの雰囲気に影響を与えるものだからです。その一方で、雰囲気に影響を与えようというコーチのあからさまな試みには効果がなく、かえって裏目に出たり、チームを抑制する結果になります。“露骨な励まし(rah-rah)は不要”なのです。
2015年には、刊行したばかりの著書“Agile Impressions“についてインタビューし、ソフトウェア業界が長年にわたって作り上げてきた光と影について質問した。
光の部分:
- Grace Hopper氏やHarlan Mills氏、さらには名を知られていない何百人の偉大な人々
- ほぼすべての人々を対象とした、安価で使いやすいコンピュータパワーへのアクセシビリティ
- 少なくともプロフェッショナルにおいて、品質への関心の高まり
- 品質追求のガイドと支援を目的としたツールとプロセスが入手可能になったこと
影の部分:
- スパム
- 低品質なソフトウェアを“コンピュータとはこういうものだ”と人々に思わせる手段として、安価なコンピューティングパワーが悪用されたこと
- 業界にとって何の意味も持たない、数百ないし数千というプログラム“言語”の急激な増加
- “魔法の弾丸”の流行的な追求
Jerry Weinberg氏の伝記が、Danny Faught氏によって執筆中である。最初は氏のWebサイトで発表され、その後、書籍化される予定だ。
Weinberg氏のビジネスパートナである組織変革コンサルタントのDon Gray氏が、氏との共同作業についてInfoQに話してくれた。
長年にわたって、小さな衝突や不満、そして修正がありました。私のキャリアと人生への彼の影響は計り知れません。数千という小さな相互作用が蓄積されています。彼と出会い、共に過ごせたことは幸運でした。
Sue Petersen氏は、自身が経験したJerry Weinberg氏のユニークさについて語ってくれた。
誰かの話を聞いている時の彼は、完全に集中していました。すべての注意と関心を傾けることで、ごくわずかな人しか成し遂げられないような理解と気付きができたのです。
彼の才能がどこから来たものか、私には、もしかしたら彼自身にも分からないのですが、彼は間違いなく、“部屋の中の象(the elephant in the room)”に気付く天賦の才能を持っていました。私には思い付かないようなシンプルな質問をして、思考の盲点を指摘し、あらゆるものを変えてしまうのです。
Jerryは、自分は真実を持っている、とは決して考えませんでした。あなたが何をすべきか、どうやってするべきかを自分が知っているとは思っていなかったのです。メンタ/メンティという関係における学生として、そこには信じられないほどの自由がありました。彼のアドバイスを考慮しながら、自分が望むようにそれを使うことができました。彼を失望させることなく、私は“私”であることができたのです。
Danny Faught氏は、氏とPeterson氏、そしてWeinberg氏との間の個人的な電子メールによる会話の中で、この点について氏に尋ねている。そこで氏が語ったのは、次のようなことだ。
Faught: Jerry、自分のアドバイスが聞き入れられるかどうかについて、何か感情的な部分はありましたか?
Weinberg: 自分自身を振り返ってみていますが、特にそういった経験はありません。アドバイスが聞き入れられない場合は、大抵、自分がやるべきことをやっていないのではないかと自問します。しかし結局、他の人にとって何が正しいのかは分かりません。彼らが自分自身で決めなくてはならないのです。Virginiaが言っていたように、すべて(のアドバイス)を味わった上で、自分にぴったりのものだけを取り入れればよいのです。
“コンサルタントの秘密”ブログでの最後の記事となった“What do you do when a kid beats your solution?で、Weinberg氏は、誰かが新しいことを教えてくれた時には、それを感謝するように勧めている。
一般論として、最も強力な学習は、誰かがあなたの想像以上のソリューションを生み出した時に起こります。もしもあなたのエゴのために、あなたの抱える問題に対する“より良い”あるいは“違う”ソリューションに対処できないようならば、ビジネスとしてソフトウェア開発のリーダシップの立場に付くことはできないでしょう。ソフトウェア開発に限らないかも知れません。
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