Arthur Purnama氏は、インドネシアで近く開催されるAgile Impactカンファレンスで、企業の統合ITへの移行を支援した自らの経験と、変革プログラムの成功には変化が不可欠であるというメッセージを、人々がどのように考え、理解し、受け止めるかを認識することの重要性について講演する。
氏はドイツでほぼ20年間暮らし、学び、働いてきた。2016年に帰国の決意をした氏は、現在は決済代行サービスの大手であるDokuのアジャイル変革を支援している。氏はInfoQに、自身のバックグラウンドや経験、講演について話してくれた。
InfoQ — Arthurさん、あなた自身の経歴と仕事に対するモチベーションについて、簡単に説明して頂けますか?
気持ち的には、私はソフトウェアエンジニアです。初期の頃からコードを書いてアプリケーションを開発することに熱中して、そのためにソフトウェアエンジニアリングを勉強してきました。ドイツに留学しようと決めたのはその頃です。費用的にも適当で、評判のよい大学がたくさんあるからです。
留学した当初は、おもに言葉の壁や文化の違いが原因で苦労しましたが、ソフトウェア開発者としてパートタイムや夏季のアルバイトをしたことが、ドイツ語でのコミュニケーションや文化の理解、プロとしてのキャリアを築く上で役に立ちました。
ソフトウェアエンジニアとして働いている間に、ITが製品開発や問題解決だけでなく、日々の生活やビジネス価値を高める上でも有効であることを学びました。しばらくしてソフトウェア開発が日常的な仕事になってからは、もっと大きなテーマを探し始めました。その後、他業界の企業のITを通じたビジネス改善を支援できるようになり、コンサルタントとして働く機会を得たのです。以後は、ITを通じたビジネス改善が私のテーマになっています。
InfoQ — プロフィールの中に、“企業の組織的行動をより詳細に検討し、統合IT(integrated IT)によってビジネス価値を創造する”という、興味深い声明がありますが、これについて説明して頂けますか?統合ITというのはどのような意味なのでしょう?
ITコンサルタントとして活動する中で、私はこれまで、おもに多国籍企業がプロセス改善やデジタル転換の一環として、ITシステムを統合するのを支援してきました。これらの企業のほとんどは、自社のITソリューションを管理する部門や職域を持っています。その結果として、経営陣や取締役会がITからビジネス上の洞察を得て、それによって適切な企業行動や意思決定を行う、ということが難しくなっているのです。統合ITを使用することで、ビジネスのバリューストリームをエンドツーエンドでよりよく理解することが可能になり、市場のニーズによりよく対応できるようになります。
私は当時、ビジネスの改善と維持に関して、まったく別の面があることに気付きました。IT統合を通じたビジネス改善が、プロセスや組織設計、企業としての機能、さらには企業文化にまで影響することが分かったのです。この特別なテーマが、組織の行動についてより深い知識を得るための手段として、エグゼプティブMBAを学ぶための動機になりました。
InfoQ — Dokuでの仕事には、そこで学んだことのどの部分が適用されたのでしょう?
Dokuで採用したのは、3つの重要な気付きです。
第1は、プロダクト開発の組織構造です。SCRUMモデルを踏襲して、プロダクトオーナ、スクラムマスタ、開発チームという役割で構成されています。
第2は、“実践コミュニティ(Community of Practice)”の実現です。このコンセプトは、チームが新たなプロセスと構造を理解するためだけでなく、継続的な学習を促す上でも有効です。
第3は、エンジニアリング規律とエンジニアリング文化の導入です。これはエンジニアリングチームが、組織と技術の観点から、よりよいコラボレーションをして、スケールアップを可能にする上で役立ちます。
InfoQ — ドイツとインドネシアでアジャイルの経験をお持ちですが、2つの国での“アジャイル適用”に関して、最も大きな違いは何だと思われますか?
InfoQ — アジャイル化する上での、インドネシアの行動様式や文化面での課題はどのようなものでしょう?
両方の質問について、私の答はひとつです。
最大の違いは、Geert Hofstede氏による国家文化の6次元モデルでいえば、“権力格差(Power Distance)”の文化的次元にあると私は見ています。自分の心を表現したり、他の同僚、特に年配者や上司と建設的な議論を行なうというのは、アジャイルを採用する上で非常に重要な部分なのです。
残念なことに、この種の行動は、インドネシアの文化ではあまり受け入れられません。そのため、自己組織化やクロスファンクショナルなチームといったアジャイルプラクティスをインドネシアで導入するのは、ドイツや他の国よりも難しい場合があります。
一方で、このような状況を活用して、トップダウンアプローチでアジリティやその価値を組織に教えるという方法もあります。
InfoQ — Dokuを見ると、あなたが参加した時、アジャイルはまったくなかったか、あるいは始まったばかりでした。Dokuをアジャイルに向かって進める上で、あなたが着手したおもな取り組みについて教えてください。
一定期間の分析を行った後、戦略的なビジョンとイニシアティブを含んだ移行プランを作成しました。それを上級管理職の同僚や取締役会で提示することで、状況に関する理解とサポートを得ました。
最初の活動は、プロダクトポートフォリオを再マッピングし、プロダクト開発組織をSCRUMフレームワークモデルに再構築することでした。その後、アジャイルの原則や価値観、プラクティスについて、チームをコーチングしました。
InfoQ — アジャイルの採用に“始めと終わり”があるとすれば、今は“アジャイルへの道程”のどのあたりでしょう?
アジャイルのマインドセットは継続的な改善と、競争の激しいビジネスとの関係を持ち続けるチャンスを与えてくれると思います。私たちは常に理想を求めているので、今、道程のどのあたりにいるのかを言うのは非常に難しいですね。機械的にアジャイルプラクティスを実践するレベルはすでに越えたと思います。肯定的な環境と継続的な学習の文化、継続的なビジネスの成長をサポートするイノベーションの創造を続けています。
InfoQ — Agile Impactでの講演では、ITと神経科学とアジャイルという組み合わせについて話されていましたが、どのようなパターンを議論するのでしょう - 神経科学がアジャイルやITと関係あるのでしょうか?
私の見解では、プロセスと文化において大きな転換を実践する企業は、この変化に社内の人々がどう反応するかを理解しておく必要があります。例えば、先ほど述べたように、インドネシアのような権力格差の極めて大きな国において、従業員が自分自身の気持ちを表明したり、あるいは上級者や上司に対して建設的な議論を行なうことを期待するのは、管理権を失う不安や無礼といったさまざまな感情を双方に生み出し、結果的に管理側と被管理側の両方からの大きな抵抗を生むことになります。企業の取り組みでは、従業員や部門からのこうした抵抗に直面しなければならないことが非常に多いのです。ですから、人々が変化のメッセージをどのように考え、理解し、受け止めるかを理解することは、変革プログラムを成功させる上で極めて重要です。講演では、アジャイル転換を実践した私の経験を通じて、このようなコンセプトを紹介したいと思っています。
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