Lippo Group元CTOのArnold Egg氏は、ダイナミックな環境でのアジャイルをテーマに、インドネシアで開催される(9月19~21日)Agile Impactカンファレンスで講演を行い、アジアの大手企業のひとつでCTOを務めた自らの経験を披露する予定だ。インドネシアが世界中の他の地域に製品やサービスを提供している状況や、ディジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の現状について語る中で、氏が特に強調するのは、ディジタルトランスフォーメーションとアジャイルトランスフォーメーションには単一の解というものはなく、コピー・ペースト的な適用は失敗するという点だ。
Egg氏は元々オランダ出身で、2000年にインドネシアに移住した。最初はアウトソーシングの会社を設立し、自身のスタートアップを立ち上げる機会を伺っていた。そして2008年にTokobagusを設立し、数年後に同社をOLXに売却した。その起業家としてのエネルギと経験を活かして、現在はLippo DigitalのディジタルトランスフォーメーションをCTOの立場でリードしている。
Arnoldさん、あなた自身についてもう少し教えてください。インドネシアに来たきっかけや理由など。
Arnold Egg: とにかくディジタルが好きなのです。子供の頃からコンピュータに興味があったのですが、インターネットが使えるようになって、世界が広がりました。何とかしてディジタルの世界で仕事をしたかったのですが、オランダ市場が小さ過ぎることは分かっていました。なにしろ規模が小さいのです。その後、幸運にもインドネシアを訪ねて、インターネットはまだ十分に普及していないものの、市場はディジタルソリューションに最適だと気付きました。
自身の製品/Webサイトをスタートする“タイミング”を待つ間、最初にバリでアウトソーシング企業を設立したということを、以前に伺いました。これは2001年のことです。その後、世界のほとんどが、インターネットに急速に移行しましたが、インドネシアではどうでしたか、また現在はどうでしょうか?
Egg: 当時はまだ時期尚早でした。インターネットは費用が高く、速度も遅すぎました。結果として、地元に市場はまったく存在していませんでした。ですから、インドネシア以外でソリューションを販売せざるを得なかったのです。今はまったく逆です。インドネシアでは、ヨーロッパの人たちよりもずっと早く、あらゆるテクノロジやアプリが受け入れられています。この市場は非常に活発で、毎日新たなものがローンチされていますし、人々は毎日いつでもスマートフォンを使っています。ディジタル製品にとっては理想的な市場です。
インドネシアは“西洋”よりも早く新しいテクノロジを採用している、ということでしたが、私の目からは、まだ多くの“問題点”があるように見えます。私が2年前にバリに来るまで、私の妻は買物にはほとんど行っていませんでした — すべてオンラインで済ませていたのです(必要なものを5倍注文して、家で試して、残りを無償で返送していました)。オランダでは、私は5年以上前から現金を持ち歩いていませんでしたが、インドネシアではそうはいきません。ですからまだ、改善の余地はたくさんあります。それについてはどう思われますか?インドネシアで早くテクノロジが採用された例をあげて頂けますか?
Egg: それはもちろん、あなたがどこにいるかによって違います。バリは最良の例ではありませんが、インドネシアやアジアの消費者の方が西洋諸国よりも、新しいアプリケーションを早く試そうとしていることは事実です。ヨーロッパの返品ポリシは、規則のためにとんでもないものになっています。インドネシアのように大きな国では、商品の返却に大きなコストが必要になるため、ここではそのような規則はありません。それでも、例えばEマネー製品は、オランダよりも遥かに高い採用率に達しています。西洋諸国では依然としてカードベースのシステムですが、この国の市場ではまだカードが完全に浸透していないため、多くの人たちがそのフェーズをスキップするという大きなチャンスがあります。もうひとつ無視できないのは、Gojek(訳注:インドネシアで普及しているバイクタクシー配車アプリ)がこの市場で果たした役割です。同じようなものを、海外では見たことがありません。Gojekを使って自宅から食べ物をオーダすることが主流になりつつありますし、オンラインショッピングで購入したものを3時間で配達することも可能です。
インドネシアの教育システムの質や(スキルを持った)エンジニアの数など、テクノロジの状況についてはどのように思われますか?
Egg: 人材に関しては、非常に肯定的に見ています。教育制度は十分とは言えませんが、インドネシアの持つ創造的な文化が素晴らしい人材につながっていると思います。
結局のところ、“ディジタルトランスフォーメーション”とは何だと思いますか?今後のディジタル開発はどのようになっていくのでしょう — どのようなトレンドに“注目”すべきでしょうか?
Egg: ディジタルトランスフォーメーションはバズワードのひとつですが、説明は非常に簡単です。私たちがすべきなのは、この新たなディジタル時代のメリットをすべて活用して、今日のごく普通のビジネスにディジタルソリューションを統合することです。ディジタル製品を使うことで、現在の手順を改善し、より効率的にすることが可能です。ディジタルビジネスの構築は通常のビジネスと変わりません — ディジタルソリューションのすべてを駆使して、より速く、より効率的に行えるようにすることで、生活をより簡単にするのです。
Lippoに入社するまでのあなたは、私が思う限り、“ディジタル”には関わらないキャリアをお持ちですが、技術的あるいはITの要素を持たない(あるいはほとんどない)企業で、どうやってそのような技術を習得したのですか?
Egg: 一般的なディジタルには関連していますが、私たちが話題にしているアジャイルなディジタルとは違うものです。違いはすべて、その実行する形式にあります。
あなたやあなたのチームが“ディジタル化”する上で、どのような課題に直面しましたか?
Egg: 最大の敵はいつでも時間ですが、それだけではなく、ディジタル技術に不慣れな人たちに対して、自分がやろうとしていることを説明しなければならないという問題もあります。そのために、関連する教育がたくさん必要になります。
私がインドネシアで気付いたことのひとつは、(リーダを含む)人々が、“どうやってやるのか”を知りたがる、ということです。ディジタルトランスフォーメーションに関する“ハウツー”をお持ちですか?
Egg: 企業によってすべて異なりますが、私が重要だと思うのは、物事を必要以上に複雑にせず、シンプルさを維持する、ということです。簡単なソリューションは、複雑なソリューションよりも高度で堅牢です。自らの仕事を自分で難しくしている人たちを見て、ショックを受けることが時々あります。
自分自身の仕事を難しくする、というのはどのような意味でしょう?
Egg: 最初にすべきなのは、適切な準備をして、本当に必要なものは何かを理解することです。要求されたものすべてに着手してはいけません。物事を複雑にする第2のポイントは、ソリューションを複雑に考え過ぎることです。可能だからと理由で、物事を必要以上に複雑にすることはやめてください。複雑なものはスケールアップが難しいのです。
インドネシアで“ディジタル化”を目指す企業にとっての、トップ3の“チップス”は何でしょうか?
Egg:
- 小さく始める
- 速く立ち上げる
- すべてを評価し、最初のステップに戻る
私自身は起業家ですので、ベンチャを新たに立ち上げる上で必要な、“目標を達成する”という態度も理解しているつもりです。この2年間に関しては、企業の内部で働く機会が多かったのですが、そちらはまったく違う世界だと言えます。“一般的な文化としての官僚的ビジネス”をより企業的文化に変えることの方が、より難しいと思います。これはまた、新たな製品をローンチすることが難しい、という意味でもあります。Lippoのやり方で面白いと思うのは、同社が経験豊富な起業家を採用して“ディジタル部門”を作り上げていることです。私が知っている他の企業のほとんどは、同じことをするために企業コンサルタントを雇っています。私の見解としては、そのような変革を進めるために起業家を採用するというのは、起業家精神が重要な要素のひとつであるという点から、極めて理にかなっています。これについては、どのように思われますか?
Egg: まさにその通りだと思います。例えばOVOの起業チームは全員が起業家のチームですが、同じ構造を加えるために、経験豊富なコンサルタントを雇ってチームに参加させるという方法もありました。ですが、起業家には、ほとんどのコンサルタントにはない、ディジタル製品を開発するために必要なスキルがあります。すべきなのは、迅速に行動し、新たな情報が得られるように調整することです。直感や経験をより必要とする作業です。
一族の所有するコングロマリットで働いた経験と、スクラッチから自身のスタートアップを始めたことを“比較”した場合はどうですか?
Egg: 正直に言って、まったく同じだと思っています。Lippo Digitalはディジタル企業を立ち上げるための完全なセットアップで、スタートアップの自由さを残しながら、同時にビッググループによる後ろ盾を持つことによって、簡単に前進できるというメリットもありました。
ジャカルタで20日と21日に開催されるAgile Impactカンファレンスの講演では、どのような話をする予定ですか?
Egg: さまざまなタイプの状況において、アジャイルを働かせる方法を話したいと思っています。企業はそれぞれ違いますから、以前の会社で実践したことをコピーするだけ、という訳にはいきません。それぞれの状況に応じたアプローチが必要なのです。私が従事したプロジェクトにおいて、アジャイルがいかに機能したか、機能しなかったか、という話ができればと思います。
面白そうですね。私がインドネシアで気付いたことのひとつは、明確な指示を行う必要がある、ということです。これは、インドネシアの“システム”が構築された方法に関係していると思っています。(父親や教師、後には上司から)指示を得ることに慣れているのです。しかしアジャイルでは、すべてにおいて自己組織化が必要です。この明確なパラドックスに対して、あなたの企業の開発者はどのように対処していますか?
Egg: 私はマネージャとして、こういったスキルはチームから学ぶことができると思っています。特に私が一緒に働いているミレニアム世代は、まったく違う考え方を持っているので、このパラドックスはもはや有効ではないと思います。
アジャイルの“コピー・ペースト”についてですが、アジャイルは“コピー”できない、企業の状況に合わせる必要がある、と思われるのはなぜでしょう?アジャイルのどの部分が“コピー”できて、どこができないのですか?
Egg: 既存の古い部門を多数抱えた大企業では特に、スクラムハンドブックの内容をそのまま実践しようとしてもうまくいきません。状況ごとに異なるアプローチが必要なのです。
成功例や失敗例を紹介して頂けますか?
Egg: スクラムを最適な形で実践するには、すべてのステークホルダからの支持と信頼が不可欠です。そうでなければ、必要な変革を続けるために必要なスプリントを行うことはできないでしょう。また、タイムラインが極端に短い場合には、行動が限られるため、スクラムはまったく機能しません。ただし、スクラムを成功させる上で企業にとってプラスになるのは、スプリント計画がステークホルダに対して明確なETAを提示することにより、すべての部門が新たな機能のリリース前に準備を調えることが可能になる点です。つまり、製品開発とは単にアプリケーションを開発することではなく、ビジネスフロー全般を開発することでもあるのです。
この記事を評価
- 編集者評
- 編集長アクション