アダプティブな組織は、気付き(awareness)をリーダシップの基本的な特徴とする、水平的(horizontal)リーダシップに基づいて活動する。好奇心と共感、そして勇気を持って真摯に耳を傾ける行為、すなわちリスニング(傾聴)こそが我々の認識、我々の関係、我々の環境を変えるのだ。
企業向けアジャイルのコーチであるAndrea Provaglio氏は、Agile Business Day 2018で、内面からのリードとアジリティへの進化について講演を行う。同カンファレンスは9月15日、イタリアのヴェネツィアで開催される。
2018年のテーマは“アジャイルへの成長(Growing into Agility)”だ。
技術的、 人間主義的、ビジネス関連など、組織自身とその活動ドメインをよりよく理解し、真のアジャイルへと向かう自分自身の道を進むために有用な、あらゆる種類のアプローチに注目します。
このカンファレンスに関して、InfoQはQ&Aや要約,記事を通じてお伝えする予定である。
アダプティブなアジャル組織におけるリーダシップについて、Provaglio氏に聞いた。
InfoQ: アダプティブな組織におけるリーダシップとは、どのようなものでしょうか?
Andrea Provaglio: その質問に答える前に、一歩戻る必要があります。アダプティブでアジャルな組織は、当然ながら環境の変化に対して迅速に応答し、適応できなければなりません。しかしながら、この単純な機能定義を注意深く見ると、さまざまなことを暗に意味しています。
そのひとつは、組織が変化に気付かなくてはならない、ということです。もし手遅れになれば、その変化は壊滅的あるいは危機的なものになります。微弱な徴候を読み取り、有用で潜在的意義のある変化を、タイムリに検出する必要があります。
その上で、変化を理解し、何らかの対応が必要か、必要ならば何をすべきなのか、即座に判断を下さなければなりません。
最終的には、実際に適応し、運用レベルで変化する必要があります。
これらの活動はすべて、階層的な意思決定構造よりも、人々の結び付きによるネットワークが存在し、さらにはそのネットワークが相互につながることで、より効率的かつ理知的に行うことができます。階層構造による意思決定では、上位への伝達における情報の遅延や劣化が不可避であり、結果として意思決定に時間を要する上に、その決定を今度は下位に伝達しなければなりません。そのプロセスにおいても劣化が発生し、最終的に解釈されて、運がよければ運用上の変化に転換されるのです。
要するにアダプティブな組織とは、トップダウン、集中化、垂直的リーダシップに代わり、意思決定プロセスの非集中化と、相互に接続された個人的によるインテリジェントなネットワークによって維持される水平的リーダシップを特徴とする組織なのです。
InfoQ: 水平的リーダシップは、どのように機能するのでしょうか?
Provaglio: 水平的リーダシップでは、個人と個人の間により多くのコネクションが存在して、双方向のコミュニケーションが行われます。言い換えれば、個人が多くの人たちにつながっているのです。さらにその人たちのグループが、他のグループとつながっている場合もあります。垂直的なリーダシップ(従来の組織図を思い浮かべてください)では、コネクションの数はもっと少なく、コミュニケーションは双方向ではあっても、特定のポイント(情報の報告と指示の下達)に限定されています。
ならば、水平的リーダシップを実現する性格的特徴、人間的特性、“ソフトスキル”は何なのでしょう?そのひとつは気付きです。適切な判断は、適応の前の気付きがもたらすものだからです - 個人の自己認識においても、状況的(あるいは全体的)な気付きにおいても、これは同じです。さらには、人々が真にコミュニケーションできるようなクオリティが必要です。
講演では、リーダシップの基本的なクオリティとしての気付き - これは非常に過小評価されています - を取り上げます。気付きはまた、ネットワーク内のコミュニケーション(“対話(Dialog)”を意味するDで表現する著者もいます)を改善する手段でもあります。
その手段として私が紹介するのは、Otto Scharmer氏の研究成果としてのリスニング(傾聴)です。リスニングは、好奇心(事実を理解したいという、誠実かつ非批判的欲求)、共感(他人の身になり、その見地から状況を感知する能力)、勇気(例えば自分たちの見解を放棄して、新たなものを取り入れる余地を作るための勇気)を相手に示します。
好奇心を持って真に耳を傾けることができれば、私たちのリスニングが私たちの認識、私たちの関係、そして私たちの環境を変えるのです。私たちを取り巻く世界を変えること、それこそが、リーダシップのクオリティに他なりません。
InfoQ: アジリティを適用する上で、リーダシップはどのように機能するのでしょうか?
Provaglio: 考慮すべき点はいくつかあります。アジャイルないしアジリティが組織の改善、適応、チャレンジに対する希望である、という前提からスタートしましょう。アジャイルがいかにあるべきかについては、アジャイル憲章を初めとして、数多くの言葉で語られています。その中では多くのモデルが提案されていて、最もよく知られているのがスクラムです。
ここでまず述べておきたいのは、すでにお気付きかも知れませんが、私はリーダシップについて述べていますが、リーダに関しては言及していない、という点です。それは、リーダとは個人であって、組織上の役割や与えられる権限に関連する場合が多いからです。これに対して、私の考えるリーダシップとは、変化のための力です。チームを“この場所から次の場所へ”導くものがリーダシップであって、必ずしも個人に関わるものではありません。
従来型の組織がリーダシップを改めて考える上で直面する難題のひとつは、私たちがリーダとは切り離された形でリーダシップを語っていることです。これは一般的な概念ではないからです。ただし、組織に役割や権限、責務が必要ないと言っているのではありません(フラットな組織といったものを私は信奉してはいません)し、組織におけるスキルや専門知識、地位の違いを否定するつもりもありません。しかしながら、それらは必ずしも、リーダシップが常に特定の個人の手に入るべきである、という理由にはならないのです。
それがアジリティにおけるリーダシップの特徴のひとつです - 組織構造上の特定の位置に、完全かつ固定的にマッピングされているものではありません。
もうひとつは、プロセスやプラクティス、ポリシだけではアジリティは実現できない、という点です。これらはEdgar Schein氏が組織の“アーティファクト”と呼ぶもので、目に見えるか、あるいは存在の明白な要素です。しかしアーティファクトは、組織の運用の結果として、その基本的なパラダイムが顕在化したものに過ぎません。アジリティを組織にしっかり根付かせるためには、例え時間と労力を要したとしても、これらを変えていく必要があります。
さもなくば、私たちのアジリティは脆く、一度の風で吹き飛ばされて、組織は従来の仕事の方法に立ち戻ってしまうでしょう。
興味深いのは、アジリティには特定の価値観を生きる必要がある、とアジャイル思想家たちが指摘していることです。組織の多くはそのことを忘れて、プロセス(産業革命の考え方から継承したもの)のみに注目する傾向にあります。例えばスクラムがそうです。スクラムでは、コミットメント、フォーカス、オープン性、尊敬、勇気という、5つの価値に基づく、と言っています。もっとテクニカルなモデル、例えばExtreme Programmingを見ても、簡潔さ、フィードバック、コミュニケーション、尊敬、勇気というように、同じような価値のあることが分かるでしょう。
コミュニケーションや勇気、尊敬、オープン性がすべて、人々のインテリジェントなネットワーク形成に関連していることは、容易に気付くはずです。そうですよね?大部分の組織がそれを忘れてしまい、その結果として、アジリティのメリットを享受できていないというのは、残念なことです。
InfoQ: このようなリーダシップをサポートして、複雑でアダプティブな世界を生き抜くために、組織できることは何でしょうか?
Provaglio: 組織のすべてのレベルにおいて、ディープリスニング(deep listening)を促進する / アジャイルプラクティスだけではなく、アジャイルの価値観を具現化する / 自立性と責任感を学ぶ社員をサポートする / 批判の文化から離れる / 大規模な変革を行う場合は、外部の有資格者(自身のソリューションを提供するコンサルタントではなく、組織自体が独自の変革を行うのを支援するコーチ)の支援を得る、といったことです。
これらはたった今思い付いたことで、ほんの一例に過ぎませんが、いずれもアダプティブな組織の創造に関係していると思います。
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