デザインスプリント(Design Sprint)は、ビジネスのアジリティを損なう従来の作業方法に対抗する強力な手段になり得る手法だ。ビジネスや顧客の難解な問題を驚くほど創造的に、エキサイティングに、価値のある方法で解決することができる。グループとしては、望ましくないアイデアを早期に、かつ積極的に破棄する手段にもなる。
AKQAのグループディレクタであるGary Crawford氏は、Goto Berlin 2018で、デザインスプリントによるアジリティ構築について講演した。InfoQではこのカンファレンスに関して、Q&Aや要約,記事などでお伝えしている。
現代における企業の生存のうryは、その顧客や市場ニーズへの対応力に掛かっている、とCrawford氏は言う。我々の企業で依然として一般的である伝統的な管理モデルでは、適応性と応答性よりも経済的効率を優先する。このテイラーイズム(Taylorism、科学的管理法)の普及がビジネスのアジリティにとって重大な障壁となっているのだ、とCrawford氏は指摘する。
リーダ、マネージャ、チームの考え方や行動に変化を引き起こすには、パワフルで魅力的な“生きたエクスペリエンス(lived experiences)”を生み出す必要がある、とCrawford氏は言う。デザインスプリントのプロセスのもたらす本質的なスピードと緊急性によって、組織の中にある制約やボトルネックはすぐに突き止められるだろう。
InfoQはCrawford氏に、ビジネスアジリティプラクティスを適用する手段としてのデザインスプリントの採用について聞いた。
InfoQ: “デザインスプリント”とは何でしょう?
Gary Crawford: デザインプロセスは、設計やプロトタイピング、アイデアの顧客との早期テストなどを通じて、ビジネス上の重要な疑問に答を出すための、多目的な5日間のプロセスです。ビジネス戦略やイノベーション、行動科学、デザイン指向などにおける“最大のヒット”と呼ばれています。
このアプローチはJake Knapp氏と、Googleの氏のチームによって開発されました。氏らはAlphabetのベンチャキャピタル部門であるGoogle Venturesで、150を越えるスタートアップ企業の協力を得ながら、アプローチのベータテストと洗練を続けて、大きな問題を迅速かつ緊急に解決する構造的手法を確立したのです。
InfoQ: ビジネスアジリティのプラクティスを採用する上で、デザインスプリントをどのように適用したのですか?
Crawford: ビジネススプリントはビジネス上の重要な疑問を調査するために開発されたものですが、ビジネスのアジリティを損なう可能性のある従来型の作業慣習に対処するための強力な手段でもあることが分かったのです。Jakeの本で概説されている公式に従うことが、この点において素晴らしい出発点になります。
制約とボトルネックは、スプリントの前にも、スプリント中にも、終了後も、常に存在します。部門間の関与、ガバナンス構造、承認委員会、ブランド上の制限、財務や法務上の承認などがその例です。このリストは長く、自身の状況に合わせてスプリントプロセスを適用することは可能ですが、単に衝突を避ける手段とすることには注意が必要です。組織の応答性を改善するためには、考え方の健全な衝突が必要な場合もあるのです。
豊田市で初の米国人職員となったJohn Shook氏は、“How to Change a Culture: Lessons From NUMMI”と題した記事で、文化変革のモデルについて述べています。氏の見識は、人々の振る舞いを変えることによって、結果的に文化に影響を与えることができる、というものです。この新事実は、振る舞いに影響を与えるにはまず文化を変える、という従来の考え方に相反しています。
“The End of Competitive Advantage”の著者で、戦略やイノベーション、起業家精神に関する権威であるRita Gunther McGrath氏も、ディジタル時代におけるマネジメントの鍵として、実験することと、その実験から素早く学ぶ能力を挙げています。すべての人的システムが複雑な適応システムである点を考慮すれば、Dave Snowden氏のCynefinフレームワークのレンズを通じた組織変革の取り組みは、確かに実験的な“調査-把握-対処(probe-sense-respond)”アプローチを支持するものであることが分かります。
Ritaの知識とShook氏の文化変革モデルを組み合わせることで、他のアジリティ構築プラクティスの組織的入門書としてのデザインスプリントの存在は極めて明確になります。迅速な行動と意思決定、クロスファンクショナルなコラボレーション、積極的な調査、顧客からの迅速なフィードバックの実践的経験が、忠実度の高いプロトタイプがわずか5日間で生み出す有意義で実用的なユーザフィードバックを体験したチームの高揚感とも相まって、すべての参加者にとって革新的な経験になるのです。
InfoQ: デザインスプリントを使用したことには、どのようなメリットがありましたか?
Crawford: スプリントプロセスには時間的な制約があるため、課題の規模やソリューションの実験性に関わらず、調査の単位コストはほぼ一定になります。これが理解できると、目標とするレベルが上がり始めます。より実験的で、エキサイティングなソリューションが探求されるようになるのです。
スプリントプロセスの導入でもうひとつ気付いたのは、グループ全体が意識して、悪いアイデアを早期に排除するようになった点です。これにはデザインスプリントの実験的な枠組みによる部分もありますが、そのような初期段階でユーザフィードバックをショートカットした結果でもあり、サンクコストのバイアスから保護する上で有効に働きます。
リーダやマネージャがこのような早い段階でユーザフィードバックの質や価値を意識し始めれば、チームの活動速度の早さとも相まって、実行中のプラクティスにユーザフィードバックを組み入れられる方法についての対話が開かれるのです。
しかしながら、組織のアジリティという観点から見た最大のメリットは、ビジネスやユーザの関する困難な問題を、信じられないほど創造的でエキサイティングで価値ある方法によって解決することができるという認識が、マネージャやリーダから生まれることだ、と私は思います。このような方法は、計画や管理に対する従来のアプローチからは、まず生まれることはなかったでしょう。新たに見出されたこの信頼関係によって、ユーザや市場のニーズに対して組織がより迅速に対応可能になる方法についての率直な対話や、アジャイルやリーン製品管理、継続的デリバリといった他のアジャイル構築プラクティスへのドアを開くことが可能になります。
InfoQ: どのようなことを学びましたか?
Crawford: デザインスプリントは、時間的制約のある迅速な調査にも、従来型の厳しい管理の考え方にも力を発揮しますが、万能ではありません。また、すでに運用されているパワフルなアジリティ構築プラクティスに取って代わるものでもありません。私たちが身に付けるべき、もうひとつのツールなのです。
デザインスプリントを採用した初期の頃、スプリントと開発の間の移行で行き詰まることがある点に気付きました。これが発生すると、生み出された洞察を失う恐れから、せっかく生み出された迅速性と進化したマインドセットが“従来的”なものに戻ってしまう可能性があります。私が見た中では、デザインスプリント自体を独立した作業ユニットとするのではなく、スムーズな移行を確実にするというより長期的な作業の出発点とすることで、この問題にうまく対処したチームがいくつかありました。
InfoQ: 読者がデザインスプリントについてもっと詳しく知りたい場合、何を参照すればよいのでしょう?
Crawford: デザインスプリントを試してみたい人のために、素晴らしいリソースがたくさんあります。私はまず、The Sprint Bookをお勧めします。最初のスプリントを実行するために必要なものは、すべて揃っています。
Sprint Stories Webサイトも、他の企業がこのアプローチについて経験したことを学ぶには最適です。
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