我々がインターネットをどのように利用しているか、我々の生活にインターネットがどのような影響を与えているかについて、意見はたくさんあるが、十分な事実はない、サイバー心理学(cyberpsychology)の目標はその事実を確立することにある、とOonagh O'Brien氏は言う。氏はRebelCon.io 2019で、インターネットの利用が学生の健康や学業成績に与える影響に関するサイバー心理学の研究について講演した。その目標は、インターネットの積極的利用とインターネットにおける積極的発展に関するポリシとガイドラインの形成にある。
O'Brien氏は、怒り、二極化、虚栄心、選挙操作、偽情報、子どもの発育、精神衛生上の問題など、インターネットを利用することの悪影響に対する懸念が社会にある、と述べた上で、教育、政府、産業におけるポリシの発展を導くと同時に、インターネット利用中における精神的および身体的健康の効果的な管理を可能にする上で、個人の認識を啓蒙し発展させるためには、インターネットのプラスの影響とマイナスの影響を認識する必要がある、と指摘した。
サイバー心理学の研究結果は、インターネットでの前向きな発展に重きが置かれている、とO'Brien氏は言い、その一例として、気晴らし行動としてインターネットブラウジングやソーシャルメディアに費やす時間に自己比較や否定的な自己評価につながるのに対して、インターネットへの貢献活動が幸福感にプラスの影響を与えるという研究成果を紹介した(Gerson, Plagnol, Corr — 2017)。その上で氏は、ブラウジングとは違い、ユーザの参画と貢献が推奨されているアプリケーション開発には、インターネット利用から得られる幸福感にプラスの影響を与える可能性がある、と示唆した。
インターネットにおける学生の行動については、多くの推測がある。彼らは我々の統合学習システムに時間を費やしているのか、あるいは猫のビデオを見ているのだろうか、とO'Brien氏は疑問を呈した。彼らの実際の活動を分析する氏の研究は、学生がインターネット上で何をしているか、どれだけの時間をオンラインで費やしているかを確認するものだ。学生が実施した心理測定テストの結果から、インターネット活動が学生の幸福感と学業成績にどのように影響しているかを評価することができる。研究の結果として、生徒の報告と実際の行動との間にギャップがあれば、それを特定することにも意義がある、と氏は強調した。
5パーセント未満を対象としたインターネット依存症、問題のあるポルノ、ゲーム依存症のレベルに関する初期調査の結果は、同様の研究で見つかった結果に近いものだった。スマートフォンの利用とソーシャルメディアへの関わりについての測定値は、同等の参加者集団を対象とした同様の調査に比較すると、予想外に大きな場合があったため、その結果にはさらなる調査が必要である。生徒たちは非常に高いレベルの孤独感を報告している。さらに、孤独感と幸福感には相関関係があり、孤独感が高くなると幸福感は低くなっている、とO'Brien氏は述べている。
Cork工科大学の講師であるOonagh O'Brien氏は、RebelCon.io 2019で、サイバー心理学における自身の研究成果について講演した。RebelCon.io 2019は、Corkのソフトウェアエンジニアリングコミュニティが一同に会して、"ソフトウェア産業における最新技術と文化と開発プラクティス"に関するワークショップと講演を行う、2日間のカンファレンスである。O'Brian氏の研究について、氏にインタビューした。
InfoQ: サイバー心理学の研究とは何ですか?
Oonagh O'Brien: サイバー心理学は、インターネットの行動とその影響を研究する新しい分野です。インターネット技術による人への影響、オンラインでの行動、オンラインで見たもの、および健康への影響などを研究します。人々がオンラインで何をし、それが彼らの生活にどのように影響するかを理解することがその目的です。
InfoQ: 研究を行う上では、どのようなアプローチを使用しているのですか?
O'Brien: サイバー心理学の研究を行う心理学者は、主にインタビューや調査に頼ってデータを収集しています。参加者を集めることが難しいので、利用可能なデータ量によって研究が制限されることは珍しくありません。調査データの提供する情報も、クールな事実に基づくというよりも、自己評価によるものです。私の研究では、CITネットワーク上の12,000人の学生によって行われた、インターネット上でのすべてのやり取りを1年以上にわたって収集した、実際のデータを使用しています。同じ学生集団を対象に、電子的な調査の配布も行っています。調査で心理測定テストの対象となった学生には、インターネット上での自分の行動と、その期間における行動への影響を評価してもらっています。収集したデータを使用することで、回答者の常用性のレベルと問題行動を推測することができます。心理測定テストでは、スマートフォンの常用性、インターネットの常用性、ソーシャルアプリの常用性、見逃しの恐怖、ポルノグラフィの問題のある使用、幸福感、孤独感を評価します。
私の専攻はコンピュータサイエンスです。私のPhDのスーババイザチームは常用性を研究し、特にサイバー中毒性に関心を持つ心理学者を中心に構成されています。彼らの専門知識は、私が収集したデータを解釈し、疑問を持つ上で非常に貴重です。
研究プロジェクトの管理にはアジャイルなアプローチを採用しています。プロジェクト全体の目標、プロジェクトのバックログ、数週間のスプリント単位での小さな成果、といったものを設定します。アジャイルなアプローチによって、測定可能な進歩を継続的に実現することができるので、目標と、それに向けた時間の投資に集中することが可能になります。
私の研究の目標は、学生集団における問題行動を特定することです。講師としての仕事上、私は常に学生たちと連絡を取り合っています。これは私の研究にとってとても有効です — 彼らを観察し、彼らと対話することが、インターネット上での問題行動に関するアイデアや、そのアイデアについて彼らと話す機会を与えてくれるからです。そのような中で、学生によるプロジェクトをいくつか立ち上げて、それぞれの研究目標の設定と、私の研究に対する情報提供をしてもらうことにしました。例えば、マンマシンインターフェイス設計に関わる学生プロジェクトでは、学生たちがスマートフォン使用(Smartphone usage)アプリを分析して、インターネット上での彼らの行動と、行動への干渉に対する彼らの意見に関して、非常に興味深い洞察を提供してくれています。学生たちは"Smartphone usage"アプリのユーザビリティとインターフェースの分析を通じて、自分たちが思うよりもはるかに長くインターネットを使っている事実に気付いたこと、インターネットの使用に干渉しようとするアプリに対して苛立ちを感じたこと、などを報告してくれました。
InfoQ: そのような研究成果を、企業や組織はどのように適用すればよいのでしょうか?製品やサービスを使用する人々の幸福感に影響を与えるために、彼らには何ができるでしょう?
O'Brien: インターネットの利用に問題性や依存性があることは、調査で示されています。企業は、開発ないし提供するテクノロジの効果を示す証拠を示し、それがユーザの精神的および身体的健康に与える影響について考慮する必要があります — 彼らには注意義務があるのです。高いレベルで技術について論じてきましたが、"人道的な技術者"たちは、レコメンデーションや行動ターゲティング広告(behavioural advertising)が大きな問題である、と指摘しています。人間には選択的注意(extractive attention)の経済に圧倒されてしまう弱さがあります。それが結果として、注意の範囲、関係性、礼儀正しさ、コミュニティ、習慣といったものの低下をもたらすことになるのです。
このような状況を懸念するシリコンバレーの技術者たちによって設立されたCenter for Humane Technologyでは、次のような点を重視した技術設計への移行を推奨しています。
- 落ち着きを生む
- 集中と学習を可能にする
- 他のユーザとのより確実で有意義な関係を可能にする
- 他者との協力や結びつきの感覚を促進する
そして、次のようなものは避けるべきです。
- 人工的なソーシャルシステム
- 過剰なAI
- 選択的注意システム
テクノロジはドーパミン作用システムに過剰に作用し、基本的な本能と認知バイアスを操作することによって、人間の弱みにつけ込むのです。
インターネット上での行動のプラスおよびマイナスの影響に関する調査を活用することで、顧客の生活を向上させるテクノロジの開発が可能になります。