Piltr Leszczynski氏は、昨年のAgileByExampleで、ソフトウェアチームにおける統計予測(statistical forecasting)手法の利用について講演した。その中でLeszczynski氏は、統計予測の最も明白なメリットは結果をよりよく予測できることだ、という持論を展開している。さらに、明白さの点では劣るが、より重要なメリットとして、ビジネスのアジリティについても強調している。具体的には次のようなことだ。
- テクノロジチームとプロダクト/ビジネス関係者のコラボレーションと理解の改善
- データコレクションの改善と、データの価値に対するビジネス関係者の意識向上
- 計画および優先順位決定プロセスの改善
- データの信頼性の向上
統計予測の最も重要なメリットのひとつとして氏が挙げたのは、
"線形回帰を話題にしたり、平均を使って当て推量したりするような集団から、フロー効率やパーセンタイルや分布について語る能力を持ち、自分たちの議論がアジャイルコーチの単なる受け売りでないことを理解している集団へという、プロダクトグループに関わる思考方法の転換と、その広がりです。"
統計予測が見積より優れている理由については、これまでにも様々な意見が述べられてきた。しかし、#noestimatesのトピックは、この話題への大きな注目と議論をもたらすことになった。#noestimatesの詳細に関しては、Vasco Duarte氏の書籍を参照して頂きたい。Duarte氏やWoody Zuill氏ら思想的リーダは、プロジェクトのコストやスケジュール予測に見積を使用することの有効性、さらにはその目的にも懐疑的な目を向け始めているのだ。
これに対して、Leszczynski氏やTroy Magennis氏らは、見積をしない(no estimate)ためではなく、よりよい見積を行う手段として、統計予測を使用することのメリットを強調している。
Leszczynski氏は、モンテカルロ法を用いた確率予測(probabilistic forecasting)が、多くの状況に適用できる直接的なアプローチであるということを論証している。予測を立案する際に注意すべき共通的問題として、氏は、次のような点を挙げる。
- KPIのバイアス
- データの入力忘れ
- 項目の分割率
- 項目のサイズ
- チームの代替性
- デリバリにおける項目のタイプ
- 仕様変更への対応
- 技術的改善の割合
氏は言う。
"私たちは、製品ロードマップにモンテカルロ法を適用することで、3年間という予測期間においていくつかの答を得ました。仮説を立て、その検証方法を決定する必要がありました — 導入予定のモデルにフィットするように、私たちのデータを調整する必要があったのです。データから得た結果には満足できませんでしたが、自分たちの楽観的な感覚よりも、そちらの方を信頼することにしました。デリバリに対するビジネスの期待に現実をより近づけるため、いくつかの実験を考案しました。間もなく1年になりますが、その間にも再予測を数回行っています。その過程では多くのことを学びました。"
何らかの形でアジャイル開発をすでに行っているのであれば、この予測方法を採用するのは極めて簡単だ、とLeszczynski氏は断言する。このトピックの詳細が知りたいのであれば、Troy Magennis氏のWebサイトに、様々な形式の確率予測の詳細なリハーサルや、手軽に実施するためのツールなど、さまざまなリソースが提供されている。"提案される予測方法は、現在のものよりも優れたものでなければならず、結果が同様であれば、少なくとも費用が少ないものでなければならない"、とMagennis氏は言う。
ビジネスアジリティの主な改善点
メリットの一覧を展開したLeszczynski氏は、それらを実現する方法を次のように説明する。
- テクノロジチームと利害関係者間のコラボレーションと理解の改善
統計予測は、ビジネス関係者にも理解できる、トレース可能なモデルを提供する(彼らが理解できないような、難解な推測ではない)。これによって、ビジネス関係者のモデルへの信頼が高まり、どのレバーが予測を改善するのかを知ることができるため、技術チームのプロセス改善により関与できるようになる。 - データコレクションとデータの価値に対するビジネス関係者の意識向上
データの品質がデリバリ予測の精度や販売スケジュールに直接影響を及ぼすことを皆が理解すれば、より良質のデータを提供するためのモチベーションが生まれて、技術的改善の数や顧客要求の予測率といった仮説の検証が重要になる。 - 計画および優先順位決定プロセスの改善
モデルを使用することで、優先順位決定のコストと、それが予測に対してどれほど重要なのかが明らかになった。そのためにビジネス関係者は、特に異なるビジネスユニット間において、重要な機能の優先順位の設定により多くの注意を払うように求められる。 - データの信頼性の向上
Piotr氏のチームでは、予測モデルに含まれる前提条件のネゴシエーションに、利害関係者が必ず関与するようにしている。こうすることで利害関係者は、"なぜそんなに時間が掛かるのか?"、"どうすれば要求するものをもっと短期間で得られるのか?"という疑問に自ら答えられるようになる。さらに氏らは、ビジネス関係者に対して、自分自身でシミュレーションモデルを使用するためのガイダンスを提供することで、見積に関わる彼らの不安を取り除き、避難の応酬を回避して、再予測を極めて容易に行える状況を作り上げている。現在では、継続的改善にもビジネスレベルの人たちが関わっている。