これからはAIやVRなど認知技術の時代だ — Susie Harding博士はTech Dublin 2019で、このように主張した。我々は現在、絶えずAIと関わっている。AIはあらゆる場所に進出しているが、5年前には考えられなかったことだ。VRテクノロジはまだ技術的な壁を乗り越えられていないが、今後数年の間にもっと身近なものになるだろう。
この数年間にわたって我々は、AIの採用が急増するのを毎日、目の当たりにしてきた。スマートフォンユーザの80パーセントは、歯磨きよりも前に自分の端末をチェックしている — この"依存的行動"にAIが大きな役割を果たしている、とHarding博士は言う。AIが、我々が何に関心を持つかを学び、時間とともに修正を加え、ユーザが好むコンテンツを見せるようにエクスペリエンスを調整することで、ユーザを繋ぎ止めているのだ。Harding博士は、我々がみな"YouTubeの穴"にひと晩中はまり込んだり、あるいはNetflixのボックスセットに丸2日どっぷり浸かったりした経験のあることに言及している — その良し悪しは別として、これはひとえにAIの仕業なのだ!
VRの真のポテンシャルは長年にわたって証明されているが、技術的な壁はまだ乗り越えられ始めたばかりである、とHarding博士は言う。
多くの人たちが、従来からあったヘッドセット形式での仮想現実を試みてきたが、真の意味で成功したとは言えない。アニメーションのようなマンガ的なエクスペリエンスを提供できただけで、結局は乗り物酔いのような不快な思いをさせていたのだ!しかしながら、このテクノロジはまだ初期段階に過ぎず、これから多くの改善が行われることになるだろう。
今後は医療から教育まで、あらゆる産業でAIの導入が進むことになるはずだ、とHarding博士は考えている。この種のインタラクションは、自分の健康をマシンに預けるという意味で、最初は非常に恐ろしく感じられるかも知れない。しかし、かつてないほどテクノロジを重視する、我々の子供たちの時代になれば、より長く、より幸福な人生をもたらすことになるだろう。それはAIだけではない、テクノロジ全体が与えてくれる恩恵なのだ。
Arvoiaの主席データ科学者であるSusie Harding博士は、Women in Tech Dublin 2019で、テクノロジの展望をテーマに講演を行った。InfoQでは、AIとVRの現状と今後の見通しについて、氏にインタビューした。
InfoQ: AIは私たちの生活に、どのような影響を与えるのでしょうか?
Susie Harding博士: この数年間、私たちが目の当たりにしてきた非倫理的で不公正なAIの利用によって、AIのもたらすべき恩恵が損なわれているというのは、疑いようのない事実です。Cambridge Analyticaで見られたようなスキャンダルは、この業界に対する警鐘となりました — これらのテクノロジは強力なツールであると同時に、不幸にも悪い手にかかった場合には極めて危険な存在になり得るのです。とは言え、AIマネジメントの悪例の存在によって、これらツールのもたらす驚くべき可能性が損なわれるというのは、許されることではありません。AIの適切な利用によるメリットの好例として、米国Socos研究所の研究者たちによる、Google Glass形式のウェラブルデバイスとの組み合わせによる研究成果があげられます。アルツハイマー病患者が近親者の名前を忘れたことを予知するためにAIと脳波測定を使用して、名前を忘れたことを検知した時に、Google Glassを使ってこの名前を患者の面前に表示するのです。
InfoQ: VRがもたらす可能性を企業が活用するには、どうすればよいのでしょうか?
Harding: MagicLeapというフロリダの会社が、これまでとはまったく違うタイプのVRテクノロジを研究しています。デバイスの代わりに、人の目や脳をプロセッサとして使用するのです。基本的には、目を通じて大脳皮質にイメージを投影するという方法です。見ているものが現実か仮想かは、もはや区別できません!このテクノロジを経験した人たちは、脳が騙されているため、自分の手を自分の顔の前にかざしても、その手が現実か仮想なのか区別できない、と言っています!
さらに、VRテクノロジは、今後数年間でもっと触覚的なものになるでしょう。VRで現在、積極的な研究が進められている分野のひとつが触覚学(Haptics)なのです。Robocopがはめているような、極めて未来的な外見の触覚グローブ(Haptic gloves)が、オンラインショッピングをまったく変えてしまうでしょう。触覚を備えることで、仮想世界に入り込んで、画面上に見ているものに触れることが可能になります。肌触りや重さを感じることができるのです。
InfoQ: AIによって今後、どのようなことが可能になると思いますか?
Harding: あらゆる産業でAIの導入が進むでしょう。例えば、
- 製造業: 予防保守からヒューマンタスクの自動化まで、エラーの発生が少なく高品質な作業をより効率的に行えるようにします。
- 医療: 従来の放射線学に画像認識技術を組み合わせてX線を読み取ることにより、偽陰性の数が減少し、病気をより正確に特定できるようになります。
- 小売業: ARやVRが広告に使用されるようになるでしょう。没入性のある製品カタログの視覚化は劇的に拡大すると思います。前述の触覚などの技術を使用することによって、オンラインで購入する前に製品を体験できるようになります。
- 教育: Google Classroomのようなテクノロジが21世紀の教育を実現します。同時にAIが、よりパーソナライズされた、動的で効果的なアプローチを教育と学習にもたらすでしょう。
InfoQ: このようなAIの未来を実現するためには、何が必要でしょうか?
Harding: 将来的な技術のために必要なことは、おもに2つあります。まず、過去20~30年においてブルーカラーが経験してきたような状況を避けるための、作業者のスキル向上が必要です。もうひとつは、AIが正しく利用されるような監視を始めなくてはならない、ということです。
スキルの向上に関しては、AIソリューションの構築だけではなく、デプロイやサポート、メンテナンスに必要なスキルを考え始めなくてはなりません。いくつか例をあげましょう。
- データエンジニアリング: 最近は手に余るほと多くのデータが利用可能であることが少なくないので、データウェアハウスやデータレイク、データマートなどの構築が可能なデータエンジニアリング専門家を手配して、データを効率的に保管し、利用することが重要です。
- DevOpsとインフラストラクチャ: クラウドコンピューティングはここ数年間で大幅に増加しています。ハイテク企業には、リアルタイムの高性能AIソリューションの提供に不可欠な、これらの環境をセットアップし、管理することのできる専門家チームが必要です。
- ゼネラルカウンセリング: 従来の技術的な役割以外の、よりソフトなスキル領域でもスキルを向上させる必要があります — 例えば、技術的な知的財産に関わる複雑さを理解したゼネラルカウンセリングが、将来的には必要になるでしょう。マシンラーニングの手法が誰でも利用可能なオープンソースソリューションであるのに対して、AIではこの問題が特に顕著なのです!
- 人材とトレーニング: テクノロジ産業が驚異的に拡大していることから、これと同じペースで採用を行うと同時に、彼らが最も必要かつ重要なスキルを常に身に付けられるようにしなければなりません。
虚偽の情報やデータの不正使用、AIの開発や展開に関わる課題に対応するためには、ハイテク企業は最高倫理責任者(chief ethics officer)を採用したり、倫理および社会的問題に関わるチームを立ち上げたりする必要があります。ハイテク企業になぜデータを独占し拡大することが許されるのか、そこから何を得ようとしているのか、という難しい問いに、私たち自身も、業界としても答えなくてはなりません。AIの倫理性はこれまでになく重要になっています。AIの未来を見据えるには、この問題をいつまでも中心に置き続けなくてはならないのです。