自己組織化チームにおいて、メンバが持つすべてのポテンシャルを発揮する機会を与えることは、今日の企業が成功を収める上で最良の方法だ、とLorenzo Massacci氏は主張する。Agile Business Day 2019で、氏は、自らを組織化するチームが継続的かつ効率的な意思決定を可能にする方法について講演した。
協調的意思決定(Collaborative decision-making)は複雑なアクティビティだ。講演の中でMassacci氏は、このような決定を行うための方法として、コンセンサス、多数決、独裁的決定、同意(consent)など、さまざまなアプローチを紹介した。 状況を理解しながら、ひとつひとつの方法を意識的に適用せよ、というのが氏のアドバイスだ。
自己組織化チームによる効果的かつ効率的な意思決定を可能にするためには、意思決定を"瞬間(moment)"ではなく"プロセス"として扱わなくてはならない、とMassacci氏は説明する。
適切な質問をするためのプロセスを確立すると同時に、そこから得た知識を意思決定と実践を行うべき人たちに提供することが必要になります。時間を掛けて問題を理解して、一般的な解決策を当然のものとして受け入れるのではなく、別案を見つけるために努力することによって、新たな選択肢を見つけるようにしてください。
最も重要なのは、ビジネスの目標と価値、指針となる原則を一致させるようにチームが活動することだ、とMassacci氏は言う。これらの課題に対する人々の強い合意があれば、一貫性のある効果的な意思決定を迅速に行うことは難しくはない。
企業やチームにおいては、意思決定能力を伸ばす"パス"が用意されていることはほとんどない。多くの場合、それは経験を通じてのみ体得されるものである。しかしながら意思決定は、トレーニングを必要とするスキルなのだ、とMassacci氏は主張する。
Agile Business Day 2019での講演を終えたLerenzo Massacci氏に、自己組織化チームにおける意思決定に関する課題、意思決定のアプローチ、チームの無秩序化あるいは意思決定不在状態の回避、意思決定能力の向上についてインタビューした。
InfoQ: 自己組織化チームにおける意思決定には、どのような課題があるのでしょうか?
Lorenzo Massacci: 私の経験からは、2つの大きな課題があります。
最初のひとつは、必ずしも全員の意見を毎回聞いたり、全員一致での決定を毎回行ったりすることなく、チームメンバと正しく関わる方法を知ることです。無秩序や停滞の罠にはまることなく、全員を効果的に関与させられるかどうか、という点が問題です。
2番目の、おそらくは最も対処が不足している上に、過小評価されることも多い課題は、意思決定の恐怖に打ち勝つことです。例えば、問題が発生すると必ず犯人探しを始めるような"非難の文化(culture of blame)"を採り入れた組織では、"失敗への恐れ(Fear of Failure)"による意思決定と私たちが呼ぶアプローチが展開されることによって、より優れた意思決定の探索や試行よりも、"私の失敗ではない"と確実に言えることの方が重視されるようになります。
InfoQ: 協調的な意思決定には、どのような種類の意思決定アプローチが適しているのでしょうか?
Massacci: 協調的意思決定に最適なアプローチというものはないと思います。複雑なアクティビティであって、状況への依存が非常に大きいからです。ひとつのアプローチを選択して、それをすべての状況で使うというのは、最も多い誤りです。
最も一般的に使用されるアプローチは、全員一致を得るために"コンセンサス"を利用する方法です。これはおそらく、全員に意見を述べる機会を与えることによって、何よりも"集合知"を考慮したい、という希望によるものでしょう。ただしこの方法は、非常に時間を要すると同時に、全員を満足させるための中身のない妥協案になる危険性があります。私の意見としては、全員一致のサポートが重要な意思決定は、複雑で影響度の大きいものである方が望ましいと思います。重要なのは関係性です。
人々の参加によってもっと早く意思決定を行う方法が多数決です。多くの人が参加可能ですし、短い時間で全員が確実に(表面的ではありますが)意思決定に貢献することができます。このアプローチのリスクは、0か1、AかB、黒か白というように、決定が"ディジタル"過ぎる傾向があることです。グレーの部分は切り捨てられてしまいますが、問題の真の解決策は、実はその部分にあるかも知れません。結果としてこのアプローチでは、真に望まれるものではなく、"どちらかといえばよい方"を選ぶことになります。その一方で、短い説明ですぐに決定できるような単純な状況であれば、非常に効率的な決定方法になります。
ひとりの人が意思決定を行うという独裁的なアプローチは、尊敬と明確性を持って行われるのであれば、カオスな状況や迅速な決定が必要な緊急時には価値のあるアプローチのひとつです(誤った決定でも何も決めないよりはよい)。
非常に興味深いアプローチが"同意(consent)"(consent decision-making from Sociocracy 3.0を参照)です。これは何らかの合意に重きを置くのではなく、反対意見の発見(進むべきでないという適切な理由はあるのか?)を重視するものです。このアプローチは、参加する方法とレベルを自身が決めることで自己責任に報いると同時に、異議を唱えるプロセスとリスニングを賢明に利用することで、優れた判断を下すことができます。
"試す価値のある判断を下すためには、意味のある異論を探しなさい"<br>(Samantha Slade, "Going Horizontal")
しかしながらこのアプローチにも、選択を基本とした会話を人々が不安なく受け入れられるような、安全な企業文化を必要とする、というリスクがあります。十分な効果を得るためには、優れたコミュニケーションスキルも必要です。
InfoQ:チームが無秩序に振る舞ったり、あるいは意思決定不能になることを避けるには、どうすればよいのでしょうか?
Massacci: 自己組織化チームで協調的な意思決定を行うというのは、全員が意思決定を行うという意味ではありません。つまり、意思決定を行う方法を定義するだけではなく、誰が行うかを確定しておくことも重要なのです。そのためには、権限移譲のレベルを明確にすることが非常に重要です。意思決定の移譲には極めて曖昧な面があるため、誤解の原因になったり、期待外れや問題が生じる可能性があるからです。
このような曖昧さを避けるためには、例えば、Jurgen Appelo氏が権限移譲の7レベル("Delegation Poker & Delegation Board")で示したような、共通のボキャブラリを使用することが必要です。
重要なのは、常に全員で意思決定をする必要はない、ということです。意思決定への関与の仕方を明確にして、貢献する方法を全員で学ぶことが大切なのです。
InfoQ: 意思決定能力を向上する上で、何かコツのようなものはありますか?
Massacci: 意思決定のスキルを向上するツールというものは、現実にはありません。人には認知バイアスがありますから、誰もが悪い意思決定者である、というのが事実なのです。よい意思決定者になるための本当の方法は、個人として、グループとしてのアイデンティティを知ることです。アイデンティティや思想は、情報を理解する方法や意思決定のフィルタになります。これを意識することで、その存在を考慮に入れた上で、アドバンテージとして使うことができるようになるのです。
さらには、チームや組織全体における対話や関係の質も、意思決定プロセスの難しさや有効性に大きく影響します。
ですから、周りから評価されるのではなく、自分たち自身や組織そのものを改善するために共に働く文化が支持されるような、心理的安心感を得られる状況の構築に向けて努力することが大切なのです。これによって、自分たちの都合ではない、組織にとって望ましい意思決定を行うことが可能になります。
"コラボレーションの唯一の真実は、互いに信頼できなければ作り出すことはできない、ということだ。" (Nilofer Merchant "The New How")