世界中がCOVID-19によるN95マスクと個人防護具(PPE/personal protective equipment)の供給不足に対応する中で、世界中の3Dプリンタが取り組んでいるソリューションが2つある。機能不全のN95マスクは防護の役目を十分に果たしていないが、フェイスシールドは防護バリアとして有用だ。
3Dプリンタは、加熱した押出機を通じてフィラメントを射出し、プリントベッド内でフィラメントのレイヤを積み重ねることによって動作する。フィラメントを下位レイヤ全体に付着させないことで、プリントプロセス内に空間を含ませることも可能だ。しかしマスクの制作では、プリント作業が正しく行われても、完成したマスクが装着者の顔をシールする形にならない可能性がある上に、装着者が二酸化炭素を吐出する表面領域が制限される可能性がある。マスクの装着時間が短ければよいかも知れないが、長時間の利用によるCO2の蓄積は、装着者が使用を続けた場合に意識を失うリスクを負わせることになる。布製のマスクの方が装着者の顔にフィットしやすいし、布やパターンを提供するJoann Fabricsなどの米国内の小売業者によるサポートもある。
3Dプリントしたマスクに関して、エレクトロニクスの専門家として有名なNaomi Wu氏は、"CO2センサを使わずに[3Dプリントしたマスクを]テストするのは自殺行為だ"と嘆いた上で、現在のマスクの吐出バルブの構造や長時間装着の価値に加えて、センサと併用することによる呼吸の確保についても説明している。別のCNNの記事が伝える医療従事者の顔写真には、長時間に及ぶ勤務でタイトなN95マスクを装着し続けたことによるあざが確認できる。Wu氏はさらに、3Dプリンタで制作したプロトタイプのマスクを装着する愛好者に対して、自分が意識を失って倒れた場合に友人がマスクを外せるように用意しておくと同時に、救命用の回復体位(recovery position)について学んでおくことを勧めている。Wu氏のコメントはマスクに関するもので、その他の3Dプリントされた形状には当てはまらない可能性がある。
テクノロジ企業のHPは、同社の3Dプリンタを使用して世界中のサプライチェーンを支援するためのリソースを提供している。その対象には、ドアオープナや留め具、マスクアジャスタなどの代用品が含まれる。FFP3マスクについて特に要望があることから、同社では、いくつかのグレードを検証中であることを説明している。
InfiQでは、米国のパーツやマシンの製造メーカである3D SystemsのKurt Henningsen氏に話を聞いた。COVID-19への対応として3D Systemsは、マシンを所有する同社のユーザベースに呼びかけて生産能力の拡大を図っている。同社はサービス機関やOEMカスタマ向けに部品を製造しているが、これまでマスクを3Dプリンティングの対象としたことはないという。3DシステムのFAQに掲げられている最初の質問には、"N95フェイスマスク、あるいは保護マスクを3Dプリントすることは可能でしょうか?臨床研究と技術的な実現性から言うならば、サージカルマスクあるいは保護マスクを3Dプリンタで大量生産するというのは現実的ではありません"、とある。プロ用プリンタとのもうひとつの大きな違いは素材のタイプで、医療グレードの仕様と生体適合性(biocompatibility)に対応したもが使用される。
"このようなデザインに関する部品の設計や製造提案などは、当社のビジネスではありません。ですが、この緊急時において医療関係者をサポートするため、ユーザやベンダの協力を得ながら活動しています。現在検討中のジオメトリの大部分は医療機器のコンポーネントです。その内容は、医療用ベッドの部品から診断機器のコンポーネントまでさまざまです。安全なフェースシールドや、その他のPPEに使用される部品の要請も受けています。3Dプリンティングによるプロセスのほとんどはプラスチックや金属でできた構造部品の製造ですから、N95マスクに使用できるという期待は持っていません。当社のシステムは、N95マスクに使うようなフィルタ素材の製造には使用されないのです。当社のテクノロジをもっと活用できるような他のニーズが、今はたくさんあります。"
Kurt Henningsen, 3D Systems
何かの役に立ちたい3Dプリンタ愛好家に対して、3D Systems、HP、Wu氏がマスクに代わる支援製品として推奨するのは、フェイスシールドだ。Columbia Surgeryは、供給不足のフェイスシールドをプリンタで製作することの価値を認め、効果的な手段だと評価している。3月23日の書簡で、外科部長のCraig R. Sith氏は、"コロンビア大学のエンジニアが現在、フェイスシールド不足の解決策として3Dプリンティングに取り組んでいる"、と述べている。書簡では、3Dプリンタによるマスク製作には言及していない。
3Dプリンタ企業のPrusaは、Pursa i3やMiniなどの標準的なプリンタで制作可能なフェイスシールドに関する資料を公開した。同社は手指消毒剤(hand sanitizer)製造用にファクトリを変更した後、現在はシールドを製造している。
Isinnovaなど他のグループでも、既存の業界のサプライヤとの提携の下で、実行可能なユーティリティの制作を行っている。特にIssinovaは、シュノーケル製造会社のDecathlonと共同で、同社の既存のシュノーケルを人工呼吸器に組み込むためのファイルを公開している。Issinovaの製品は現在、イタリアの病院で使用されている。
一般向けの3Dプリンタを所有しているならば、Issinova、Prusa、3D Systemsといった著名な業界リーダが検証したプランを、自分たちの地元組織を支援する手段として検討する価値はあるだろう。