地理的あるいは時差的な近接性を中心として構成された自律型チームモデルは、分散型組織をより効果的なものにすることができる。逆Cornway戦略(Reverse Conway Maneuver)を用いれば、ボトルネックを意図的に追加ないし排除することが可能になり、構築しようとしているデザインをより適格にサポートすることが可能になる。
Kevin Goldsmith氏はStretchCon 2020で、分散型チームの指揮について講演した。
分散型組織を率いる上でおもな課題となるのは、Conwayの法則、Amdahlの法則、より多くの共感(empathy)とコミュニケーションの必要性である。これら4つの大きな課題は、分散型チームが日々直面する問題に大きく関わっている、とGoldsmith氏は説明する。
多数の企業で分散システムを率いた私の経験から、これらの課題は、チームが異なる大陸、異なる都市、同じビル内の異なる階、さらにはビルの同じ階の異なる部署でさえ再現されているのです。
チーム間あるいはチームのメンバ間の、直接顔を合わせるコミュニケーションの欠如は、人々が相互に持つ共感を著しく低下させる、とGoldsmith氏は言う。
それは人の節理です。仮想的なインタラクションを続けていけば、私たちは人ではなく、画面上の点の集合になります。
分散型チームを許可する場合は十分な検討が必要だ、チームが(常にではないが)通常は同じ場所にいたとしても、分散型チームにかかわる問題は起きることに注意しなくてはならない、とGoldsmith氏はアドバイスしてくれた。
2020年2月、StretchConでの講演を終えたばかりのKevin Goldsmith氏に、分散型組織をより効果的にする方法についてインタビューした。
InfoQ: 企業が分散型組織を選択するのはなぜでしょう、どのようなメリットを期待しているのでしょうか?
Kevin Goldsmith: 多くの企業は、分散チームへの切り替えを、十分な考慮のないままに決定しています。勤務形態をもっとフレキシブルにしたい、場合によっては自宅からの作業を可能にしたい、両親の介護をするために遠隔業務ができるようにしたい、といったような理由で決めているのです。このパターンは、一度確立すると勢いを増す傾向があります。
他の市場にオフィスをオープンする選択をしたり、あるいは他の会社を買収することによる、意図的な決定を下している企業もあります。こうすることで、企業にとっては、専門性の高い、あるいは賃金の安いタレントへのアクセスを促進したり、新たな市場にローカルプレゼンスを持つことで市場理解ないしシェア促進の一助とすることが可能になるのです。創業時から部分的、あるいは全体的に分散組織となるように、意図的な決定をしている企業もあります。
InfoQ: 分散型チームで作業する場合、Conwayの法則をどう扱えばよいのでしょうか?
Goldsmith: Conwayの法則は、Malvin Conway氏の書いた記事を基にしています。組織のコミュニケーションパターンは組織の生み出すデザインに反映される、というのがその内容です。分散型組織では、チームがそれぞれのオフィスや時間帯に分散する方法によって、意図しないコミュニケーションパターンが生み出されることがあります。
(地理的に分散した小グループで構成されているチームや、完全な分散型チームにおける時差によって)メンバの一部が近接していると、2つのコミュニケーションループが現れることになります。すなわち、リアルタイムコミュニケーションの可能な短いループと、リアルタイムではない長いループです。コミュニケーションのこの格差が、Conwayの法則の効果を化させているのです。
Conwayの法則を認識して、コミュニケーションチャネルによって最適ではないデザインが生み出されるのを防ぐことが重要です。組織のパターンを通じて考えれば、ボトルネックを意図的に追加あるいは排除することによって、構築しようとするデザインをよりよくサポートできるようにすることが可能なはずです。これは"逆Conway戦略(Reverse Conway Maneuver)"と呼ばれるもので、AmazonやNetflix、Spotifyといった企業が採用しています。
InfoQ: 企業のエンドツーエンドのパフォーマンスを改善するソリューションには、どのようなものがありますか?
Goldsmith: Amadahlの法則は単純に、並列システムの速度はその最も遅い部分で決まる、と言っています。
チーム間に強固な依存関係の存在する分散型組織では、よりウォーターフォール的な作業方法を取らざるを得なくなります。従って調整のためのオーバーヘッドや、ハンドオフ時のコラボレーションが大幅に増えることになります。機能がロケーション的に分散している機能型組織もまた、デリバリの速度を向上する上で多くの課題が発生します。
分散型組織においてAmdahlの法則の影響を克服するために、私は、地理的あるいは時差的な近接性を中心に組織されたチームによる自律型チームモデルを提唱しています。チームにローカルな意思決定力をもっと与えるためには、チームと組織上のリーダシップの双方が同意した、明確なメトリクスを使用するとよいと思います。そのメトリクスが、チームの決定に対する信頼性をサポートする、説明責任の役割を果たしてくれます。これによって、組織の分散的性質によって増加した調整やコラボレーションのオーバーヘッドは大幅に低減します。
InfoQ: 分散型組織で共感のレベルを上げるには、どうすればよいのでしょう?
Goldsmith: 分散型チームでより多くの共感を構築する方法はたくさんあります。定期的に直接顔を合わせるのもよいですし、バーチャル会議に関するグッドプラクティスを作ったり、バーチャルメディア上で自分たちを"人間にする(humanize)"機会を個人やチームで設けるのもよいでしょう。
ミーティング終了後に業務以外の話題を話す時間を設けているチームもありますし、ビデオコール上で動作するDungeons and Dragonsのようなゲームをプレイしているチームもあります。Fancy Fridaysのような楽しい儀式を決めるのも、チームの人たちを人間として認識する上でプラスになるかも知れません。
分散型組織におけるコミュニケーションの問題は、2種類のコミュニケーション帯域が存在することが多い、という事実から来ています。同じ場所にいたり、あるいは時差の近い人たちは、距離の遠い人たちに比べて、コミュニケーションの帯域が高くなるのです。
コミュニケーションの問題に対処するためには、チームで使用するコミュニケーションチャネルの数を少なくして、会話のコンテキストを保存できる、SlackやGoogle Docsのようなチャネルを中心にすることが重要です。チームが使用するツールの数を減らすことは、情報の検索や意思決定の追跡が容易になるという意味でも価値があります。
InfoQ: 分散組織をより効果的なものにするために、何かアドバイスはありますか?
Goldsmith: Conwayの法則に関する問題や、デリバリパフォーマンス、共感、コミュニケーションの低下を示す前兆を探して、それらがコントロールできなくなる前に対処するようにしてください。
分散型モデルを目指すのであれば、アプローチをアジャイルにする必要があります。ひとつの企業のソリューションが、他の企業にも合うとは限りません。常に状況を振り返り、学んだことを問題に対する新たなソリューションのトライに使用するのです。
社員のモラル、タレントへのアクセス、人材コストの削減など、分散型チームのサポートには大きな価値があります。分散型チームモデルの課題を、企業が無視しないことが重要です。企業が相応の努力を惜しまなければ、課題はきっと克服できます。