O'Reilly Mediaが新たに発表したCloud Adoption in 2020レポートには、クラウドコンピューティングに対する"絶大な"支持が描かれている。調査にはまた、サイトリライアビリティエンジニアリング(Site Reliability Engineering)採用の増加、高いが頭打ちのマイクロサービス採用、サーバレスコンピューティングへの関心の低さ、といった結果も現れている。
O'ReillyのRoger Magoulas氏とSteve Swoyer氏の手によるレポートは、2020年1月に収集された調査データを解析したものだ。1,300件近い回答中、20パーセントはソフトウェアエンジニアからの回答で、約20パーセントが技術リーダ、25パーセント近くがマネージャや役員からのものである。回答者のほぼ55パーセントが4年以上の職務経験を持っていることから、"一般的な調査よりも経験の深いグループ"が対象となっている、と著者らは記している。回答者の大部分がソフトウェア産業に従事している — Magoulas、Swoyer両氏は、回答者グループに"著しい偏りがある(significantly overrepresented)"と表現している — が、これは調査結果にも影響しているものと思われる。回答者の28パーセントが従業員100人以下の企業に勤務する一方で、4分の1は10,000人以上の従業員を持つ企業で働いている。最後に、人口構成的に注意すべき点として、この調査にはヨーロッパ人の参加が非常に少なく、回答者の11パーセントに過ぎない。3分の2は北アメリカからであり、15パーセントがアジアからの回答である。
出典: https://www.oreilly.com/radar/cloud-adoption-in-2020/
回答者の88パーセントがクラウドコンピューティングサービスを利用している。調査では、クラウドを狭義に扱うことを意図的に回避していたため、回答者は、広い意味でのホストサービスをクラウドと考えて回答しているものと思われる。これについて著者らは、回答者の大部分は"自らの組織全体を完全には把握していない"ので、包括的な定義を用いた方が効果的だった、と述べている。この概念の下で、クラウドをまったく使用していない、と主張するのはわずか10パーセントであった。その理由は何だろう?組織的な意向がその一部を占めており、著者らが"不可解"だと評する"コスト"がその理由になっている。注目すべきなのは、オンプレミスに留まる理由について論じられた先日のHacker Newsのスレッドでも、クラウドのコストの高さに関する議論が数多く取り上げられていたことだ。
出典: https://www.oreilly.com/radar/cloud-adoption-in-2020/
パブリッククラウドを使用しないのが少数派であることは明らかだ。調査では90パーセントが、クラウド利用は今後増加する、と予想している。実際に、回答者の4分の1は、自分たちのすべてのアプリケーションを、今後12か月内にパブリッククラウドインフラストラクチャに移行する計画である。小規模な企業ほど、自社のアプリケーションポートフォリオをすべてクラウドで運用する傾向にあるのは意外ではないが、10,000人以上の従業員を持つ企業の17パーセントも、同じように自社の全アプリケーションをクラウド内にホストしている。ただし調査では、"アプリケーション"やクラウドへの"移行"の意味を明確にするための配慮は行っていない。余談だが、O'Reillyの最新のRadar — 注目すべきテクノロジやプラクティスを取り上げている — では、クラウド移行における"リフト・アンド・シフト"プラクティスに異論を唱えている。
出典: https://www.oreilly.com/radar/cloud-adoption-in-2020/
オンプレミスでのクラウドは49パーセントが使用しており、61パーセントはパブリッククラウドを選択している。ハイブリッドクラウドの利用は39パーセントとなっている。回答者の64パーセントは下表の5つの方法中、少なくとも2つのクラウドデプロイメントを選択している。"マルチクラウド"が振るわないのは、このモデルを単独の戦略として追及するものが少ないからだろう、と著者らは推察している。
出典: https://www.oreilly.com/radar/cloud-adoption-in-2020/
回答者の3分の2以上がAWSを使用しており、2分の1はMicrosoft Azureを選択し、Google Gloud Platformは3番目である。44パーセントが複数のプロバイダを利用している。レポートでは、ほぼすべてのマルチクラウド戦略の一部となっていることから、AWSを"バックストップベンダ"と呼んでいる。
MicrosoftやGoogleがシェアを伸ばしたとしても、AmazonとAWSを押し退けることにはなりません。というより、明確にマルチクラウドを"実行している"とは言っていない企業でも、実際にはマルチクラウド戦略を推進している、ということなのでしょう。今回の調査の回答を見る限り、マルチクラウドとは事実上、"AWS + 他のクラウドサービス"という意味なのです。
2,000人近くが参加し、先日その結果がリリースされたJetBrainsの調査も、O'Reillyの調査結果のいくつかを補強している。その調査では、回答者の51パーセントが(コンテナ化した)ワークロードの実行にパブリッククラウドを選択している。最も選ばれているのは同じくAWSで、GoogleとMicrosoftがそれぞれ2番、3番となっている。
出典: https://www.jetbrains.com/lp/devecosystem-2020/devops/
O'Reillyのレポートでは、クラウドコンピューティングに関連するプラクティスやテクノロジの普及度にも目を向けている。回答企業の25パーセントがマイクロサービスアプローチの使用を報告しており、その約3分の1は3年以上使用している、と回答している。レポートの著者らは、回答者がマイクロサービスをデプロイしているのか — あるいは単にツールやコンセプトを活用しているのみなのか、という質問はしていない。さらに著者らは、マイクロサービスへの関心というトレンドがピークに達したのではないかと見ている。
出典: https://www.oreilly.com/radar/cloud-adoption-in-2020/
サイトリライアビリティエンジニアリング(SRE)は注目のプラクティスになりつつあるようで、35パーセントの企業が採用している。それに関連して、O'Reillyのチームは、DevOpsのトピックに関する関心が、過去2年間減少傾向にあることを確認している。これに対する執筆者の意見は、DevOpsプラクティスの成熟により、ITプロフェッショナルたちが、SREのような"DevOpsに近接する規律"の習得に移ったのではないか、というものだ。同時に、今回のレポートにおけるSREの印象的な状況には、対象者の選択バイアスが原因としてあるのではないか、とも述べている。先ほど述べたような、ソフトウェア企業からの回答の不均衡な数を、もう一度思い返してほしい。
34パーセントの回答者がサーバレステクノロジを利用している。その一方で、このパラダイムにほとんど関心を示さない回答者の数も驚くほど多いのだ。
回答者のほぼ半数(47パーセント)が将来的な導入を考えているSREの場合とは違い、サーバレスの導入を予想する回答者は多いとは言えません(約37パーセント)。ベンダの評価、サーバレスシナリオの公開、あるいは限定的なサーバレステストといった、サーバレスの"実験"を実施した回答企業も、同じようなマージン — 37パーセントが実験肯定派、63パーセントは否定派 — で少数派なのです。
Cloud Adoptionレポートではさらに、クラウドベースのインフラストラクチャの利用に成功する上で最も重要な、スキルの領域についても調査している。複数選択の可能な質問に対して、回答者の3分の2が"クラウドセキュリティ"をトップとして選択した。合計で6つのスキルが、結果的に50パーセント以上を獲得している。残る5つは"監視"、"クラウドの一般知識"、"コンテナ"、"Kubernetes"、"マイクロサービスアーキテクチャ"である。関連するスキルのグループがあること、中でもクラウドセキュリティに関するものが多いことなどを、著者らは指摘している。