DevOps Enterprise Summit London 2020で注目された話題のひとつは、3日間の仮想カンファレンスの初日にGene Kim氏が開会の挨拶で最初にアピールしたトレーニング"dojo(道場)"の導入についてだった。氏が紹介したのは、今年、このカンファレンスと同様に仮想空間で実施されたIT Revolution Forum ebookで公開された、Targetのdojoフレームワークだ。dojo -- DevOpsチームのメンバがハンズオントレーニングを行う場所 -- の話題は、adidasやVirgin Atlantic、Comcast、Sky、Verison、US Bank、Walmartなども取り上げていた。
adidasによる最初の基調講演 "DevOps Journey at adidas III: Exploring Data in the Cloud" では、プラットフォーム・エンジニアリング担当VPのFernando Cornago氏と、エンタープライズアーキテクチャ担当VPのDaniel Eichten氏が、同社の既存ディジタルエコシステムを代替し、学習および実験目的に特化した空間を創造した、コラボレーションエンゲージメントのための新たなインタラクションモデルとしてdojoを紹介した。
プラットフォームサービスチームの一部がコラボレーションに苦労していることを知ったAdidasでは、2つのチームがdojoに参加することによって、問題状況やKPI、今後の相互支援の方法について合意することを可能にした。Cornago氏はdojoについて、プラットフォームチームが技術的知識を深め、プロダクトチームが日々の運用を経験する "ピアゲーム(peer-game)" である、と説明した。同社のdojoは期限付きでバリューベースのものだ。dojoアプローチによって、MTTR(Mean Time to Restore)、MTTD(Detect)、MTBSI(Mean Time Between Service Incidents)の低減が達成できた、と同社は報告している。
Virgin AtlanticのシニアプロジェクトマネージャであるMichelle Moss氏と、プラットフォーム・エンジニアリングおよびDevOps責任者のNic Whittaker氏は、同じく初日の分科会講演 "A Trail of Breadcrumbs" で同社のdojoについて解説し、クローリー(英国)とデリー(インド)からの参加チームに対して、"最適化し、コラボレーションし、最も共通的な成果のための機会を創造する"プラットフォームの提供を目的としてデザインされた、同社のXLR8 dojoが成果を挙げたことを報告した。
ComcastエンジニアリングディレクタのMichael Winslow氏と、Skyのオンラインコンプライアンスおよびブランド保護マネージャであるNisha Parkas氏によって初日に行われた、もうひとつの分科会講演である "Connecting Comcast and Sky: Using the Dojo Format with International Teams" では、Comcastがdojoを使って、Skyが開発するオープンソースプロジェクトのVinyIDNSの導入に成功した方法に全体の焦点が当てられていた。Winslow氏は、大規模なDNSフットプリントを持つComcastにとって、DNSエントリの標準準拠を強制し、詳細なアクセスコントロールと堅牢なAPIを備える、このプラットフォームが重要であることを説明した。
しかしながら英国のSkyは、Slackなど既存のコミュニケーションチャネル経由ではフィリピンにあるComcastに接続することができないため、別の方法を探さなければならなかった。SkyはAzureも使用していた。ComcastにはそれまでAzureの経験はなかったが、新たなクラウドプラットフォームとするために、このチャレンジを受け入れることにしたのだ。Comcastの定義するdojoは、次のようなものだ。
フルスタックエンジニアが集まって最新のエンジニアリングや製品、アジャイルプラクティスを学ぶための、没入型学習エクスペリエンスとなるようにデザインされたスキルアッププログラム
両社は、dojo参加を通じて全員が何らかのものを確実に学べるようにする、という作業協定の下で協力し、目標とその基準、dojoスプリントの基本ルールを共同で作成した。作業では、仮想ホワイトボードやScrum/かんばんボードを提供するMuralなど、リモートコラボレーションツールが使用された。
講演の中で氏らは、既存の変更要求プロセスにおいて、新たなDNSレコードを生成するために3レベルの承認が必要であることを説明した。仮想ルームには技術系と非技術系の人々が混在しているため、相互に学ぶことが可能だった。Parkas氏によれば、"彼ら(技術チーム)との作業で、私たちがエイリアンと一緒にいるようには感じることはありませんでした!" VinylDNSによって、DNSゾーンの生成が増えるに従って複雑化していた、面倒な承認プロセスは廃城された。このプロセスを拡大する方法は唯一、自動化することだけだ、とWinslow氏は述べている。氏らはまた、独自のdojoをモデル化する上で役に立った重要なリソースとして、IT Revolutionの書籍"Getting Started with Dojos"を紹介した。
カンファレンスの2日目には、DXC TechnologyのDevOpsプリンシパルであるOliver Jacques氏と、グローバルデリバリ担当VP兼CTOのChris Swan氏が、書籍"Accelerate"やNicole Forsgen博士、Jez Humble氏、Gene Kim氏らの研究で有名になった、DevOpsパターンを学習および実践できる場であるオープンソースのオンラインDevOps dojoを紹介した。
講演の中で氏らは、オンラインDevOps dojoのトレーニングモジュールのひとつである"shifting security left"を一通り案内してみせて、開発者が直接的に再利用可能なコンテンツを受け取ること、リーダがその概念を理解し、実装を確認し、チームに同様なプログラムを作成するためのリソースにアクセスすることを説明した。学習モジュールはオープンソースで、DevOpsコミュニティには単に利用するだけでなく、エンハンスや新たなモジュールの作成に協力してほしい、と氏らは呼びかけていた。
同じく2日目には、Dojo Consortium創立メンバであり、Verisonのシステムエンジニアリング担当シニアマネージャのRoger Servey氏、US BankのアジャイルプロダクトエンジニアリングDevOps変革リーダであるStacie Petersen氏、WalmartバリューストリームアーキテクトのBryan Finster氏によって、"Enterprise Transformation Through Scenius"と題した講演が行われた。
調査では、コンソーシアムの目的について、Sceniusを構築するために、集合知性とクラウドソーシングの取り組みを推進することにある、と説明されていた。Kim氏と同様に氏らも、dojoの概念の起源をTarget、特にRoss Clanton氏とそのチームにあると考えており、没入型学習環境のパイロットが3つの大きな専用スペースになったこと、開発結果が数ヶ月ではなく数秒でデプロイされたことなどを説明した。dojoは世界中のTargetに拡散し、その後、コミュニティとの共有と還元がミッションとして定義された。コミュニティの他のメンバが自社でのホストを始め、情報が流通することでさらに多くの組織が導入し、アーリーアダプタとしてのCapitalOneやNordstormをも含んだSceniousコミュニティのサイクルが立ち上がったのだ。
Dojo Consortiumは現在、40社にわたる100以上の参加者を抱えるコミュニティになっており、開発、共有、相互学習を続けている。Finster氏は言う。
私たちの活動は、シナリオ・アズ・ア・サービスです。"どうやって始めるのか、成功を判断するのか、スケールアップするのか?"といった質問に答えています。学びは競争関係を超越するのです。一緒に学ぶ上で、自分と同じ課題を抱えている人以上の存在があるでしょうか?上げ潮はすべての船を持ち上げる(A rising tide lifts all boats)のです!私たちはDevOpsとして、同じ文化を持っています — 全員が可能な限りのものを共有しているのです。誰にでも進んでいる部分と遅れている部分があります。強い部分はすべて共有し、弱い部分はもっと強い人の協力を仰げばよいのです。お互いがメンタ(mentor)であり、メンティ(mentee)なのです。
氏は成功を測る方法についても言及し、ソフトウェアデリバリのパフォーマンスでは急激な改善は普通のことであり、致命的障害の発生率(change failure rate)が50パーセント改善されることも珍しくはない、と説明した。
2ヶ月ほど前、Verisonのチームは、年間200万ドルを節約する数百万ドルの製品強化と、年28万ドルのコスト削減を提供したことを発表している。チームのメトリクスにおいて150パーセントの改善を実現すると同時に、障害数を400件から150件に削減し、開発リードタイムを9日から2.5日に短縮した。
US Bankは、顧客を自社のdojoに招待することで、顧客のエクスペリエンスを間近に捉え、フィードバックを直接受け取っている — 同社ではこれを"体験スタジオ(Experience Studio)"と呼んでいる。その結果、同社は、カスタマを重視したモバイルプロダクトを1ヶ月足らずで開発することができた。同社によれば、従来ならばプロジェクトチームの構築だけで数ヶ月を要した開発だ。Petersen氏はさらに、このアプローチを用いたことで、ビルドプロセスが10倍早くなったと述べている。さらに同社は、変革が起きていることをリーダ層に思い出させ、大胆に変革し、同じ方法を続けないために赤い靴を買うという、Red Shoes Movement"も始めた。"文化や信頼は、障害にも支援にもなり得るのです。"
Walmartでは2017年に統合デリバリプラットフォームを定義し、関心のある者でコミュニティを構成し、Hygieiaを通じたメトリクスの収集に着手した。この実験を水平展開する必要に対して、Finster氏は、このニーズを満足するにはコンソーシアムへの参加が重要だ、それによってアイデアを比較し、対話から他者の経験から学ぶことで無駄な投資を回避することが可能になる、と述べている。一方で氏は、状況が重要である — 文化や地域の違いを考慮しなければならない、とも強調した。Servey氏は言う。
測定され、報告されるものは、指数級数的に改善が可能です。再犯を回避するためには、リーダがチームと旅を共にする必要があります。コミュニティには強さがあります。
DevOps Enterprise Summit 2020 Virtualの講演者によるスライドは、GitHubで公開されている。