Enterprise Management Associates(EMA)は先頃、DevOps 2021の調査結果を公開した。その中では、バリューストリーム・マネジメント (VSM) ベンダへの市場参入が2020年内に50パーセント近く増加し、2021年にはさらに20パーセント増加するという予測とともに、それらVSMベンダが市場の期待に応えられていないのではないか、という点が示唆されている。立ち上がりが捗々しくないという事実は、ソフトウェアデリバリ・ライフサイクル(SDLC)を構築する包括的なツールチェーンを統合することの難しさを物語っている。
VSM採用に関わるもの、VSMの持つ変革的影響、失敗の可能性などの理解を深めるべく、代表的なVSMプラットフォームプロバイダのPlutoraでプロダクト担当VPを務めるJeff Keyes氏に話を聞いた。
InfoQ: 企業が提供する価値の予測や監視は、一般的にはどのように行われているのでしょうか?
Keyes: 既存のプロジェクトポートフォリオ管理(PPM)ソフトウェアを利用して、主要なプロジェクトやプロダクト活動に期待される価値と費用支出をモニタリングしている企業がほとんどです。本当の価値の追跡についてはほとんど資料化されていません。"価値(バリュー)"という言葉自体、本来の意味が明確化されていないため、監視技術の未熟な企業が非常に多いのです。改善指標や実績費用を監視する企業は多いのですが、その本来の意味を定量化している企業は少なく、結果として監視が難しくなっています。これは特に、テクノロジ関連のプロダクトや、サービスがバリューストリームとして認識されない場合に課題となります。VSMはこの問題をすぐに顕在化するのです。
InfoQ: バリューストリーム・マッピングとバリューストリーム・マネジメントという用語の間で、市場において混乱があるように思われるのですが?
Keyes: 2つの用語に関して、市場の中に多くの混乱があることは間違いありません。何年も前、アジャイルとリーンという方法論がハイテク業界に持ち込まれたことで、多くの人たちがバリューストリームのマッピングというコンセプトと、その意味を受け入れるようになりました。
バリューストリーム・マッピングはプロセスマッピングとは違います — もっと高いレベルのバリューストリームに対する鳥瞰図なのです。バリューストリームをプロセスの集合体と考えれば、バリューストリーム・マッピングの目的をもっとよく理解できます。バリューストリームマップはソフトウェアのバリューストリームのすべてのステップを列挙したものです。マッピングという行動によって、介入の必要なプロセスを特定するのです。バリューストリーム・マネジメントはさらに一歩進んで、バリューストリーム全体の作業フローをキャプチャし、バリューストリームのパフォーマンスと改善の機会を特定するものです。
InfoQ: そのような中へ、バリューストリーム・マネジメント・プラットフォームはどのように加わっていくのでしょうか?
Keyes: VSMプラットフォームは、バリューストリームを進行中のプロセスに適用することによって、顧客に提供する価値を継続的に改善しようというものです。これを実現する手段として、ツールチェーンを取りまとめる統合モデルを共通データモデルとして運用し、それによってバリューストリーム全体に対するエンドツーエンドの可視性と追跡性を提供するのです。システム全体として何が起きているのかを理解するために、ツールからのデータをスプレッドシート内で変換する必要はなくなります。分析から得られる深い洞察や、同じ用語を用いた広範かつ多様な可視化にアクセスすることで、データ駆動による意思決定と迅速なイノベーション、リスク管理が可能になるのです。さらに、ガバナンスの自動化によってリスクを管理し、SDLCを通じて実施される作業の継続的コンプライアンスを確保します。
InfoQ: VSMを導入することで企業が克服しようとしている課題は、おもにどのようなものなのでしょうか、また、失敗する場合の理由は何ですか?
Keyes: おもな課題は4つあります。それらは、"ポートフォリオ全体の可視性が欠如しているために、進行中の作業をポートフォリオレベルで追跡できない"、"パイプラインを通じた可視性が限定的である"、"管理と最適化が不十分で、複数の作業ストリームや異なるテクノロジが存在する"、"方法論が不十分であるため、自動化ツールを導入しても、どのメトリクスをKPI(Key Performance Indicator)として使用するべきか、ビジネスリーダやITリーダが明確に把握できない"、という問題です。
他のプラクティスがそうであるように、当然VSMも失敗することはあります。それは、企業の仕事の方法への統合が十分でない場合です。VSMが最も有効なのは、アジャイルとDevOpsと統合して、ソフトウェア開発とデリバリの継続的改善を支援する時です。経営陣、開発マネージャ、エンジニアリングチームすべてがVSMのメリットを享受できますが、その潜在能力をすべて引き出すには、毎日のオペレーションにプラットフォームの使用を取り入れるための時間を確保する必要があります。
InfoQ: DevOpsリーダにVSMを認めさせるには、どのようなメトリクスが有効でしょうか?
Keyes: 業界標準になっているメトリクスはDORAメトリクスです。これはデプロイメント頻度(DF)、変更の平均リードタイム(MLT)、回復リードタイム(MTTR)、変更障害率(CFR)という4つの重要なメトリクスに関わっています。企業はこれらのメトリクスを確認して成功へのガイドとするべきですが、チームとしては、それらよりも新しく開発された、リードタイム、スループット、作業効率(作業項目の実時間と総時間との比)、サイクル時間、仕掛り数、作業内訳(機能対象外比など)といったVSMメトリクスの採用も視野に入れた方がよいでしょう。
ForresterのQ3 VSM evaluationによると、この分野ではDigital.ai、ServiceNow、Tasktop、Plutoraが先行しており、Targetprocess、IBM、ConnectALL、CkoudBees、さらには新たに参戦したAtlassian、GitLab、Blueprintsysといった企業が名を連ねる。InfoQでも先頃、業界書の著者であるJack Maher、Carmen DeArdo氏を招いて、ディジタルトランスフォーメーションというより広いコンテキストからバリューストリーム・マネジメントについて議論した。