InfoQは先日、CNCFのゼネラルマネージャのPriyanka Sharma氏と、間もなく開催されるKubeCon + CloudNativeCon EUイベントについて議論する機会を得ることができた。話題はさらに、我々すべてが生きている前例なきこの時代において、現在および将来のビジネスに対してクラウドとオープンソースが持つ役割にも及んだ。
Sharma氏はCNCFのGMとして発表されたばかりなので、今回がこの新たな役割で迎える初めてのKubeConになる。これが初めての経験であるのは、しかし氏だけではない。世界的なパンデミックによって人の集まるイベント開催が制限された結果、多くの人たちにとって初めての仮想イベントとして、8月17~20日に実施されることが決定したからだ。
パンデミックはビジネスモデルを -- ある面ではよい方向に、別の面では悪い方向に -- 根本的に変化させている。そしてクラウドの採用は、イノベーションの推進と、増大するカスタマニーズに対して柔軟に対応する能力の提供という2つの意味において、非常に重要な役割を果たしている。CNCFは、すべての企業や組織がクラウドテクノロジと、関連するアーキテクチャやプロセスを利用できるようになることを目指している。
Sharma氏は個人的および専門的の両面において、多様性、公平性、包括性(DE&I)のアドボケートである。議論の中で氏は、CNCFがコミュニティにおけるDE&Iのイニシアティブをさらに進めるステップについて、その概要を説明してくれた。
InfoQ: 世界的なパンデミックの影響で、誰にとっても経験したことのない年になっていますが、クラウドネイティブコミュニティの堅牢性と成長を維持する上で、何か特別なアプローチを行っていますか?
Priyanka Sharma: 確かに経験したことのない年ですが、そこで直面する課題のためにこそ、オープンソース -- そしてCNCF -- は存在しているのです。私たちの生活は、リモートが中心になっています。私たちの課題もまた、世界規模になっています。世界中のすべての人たちが、あらゆることをオンライン中心に行わなければならなくなりました。オンラインソリューションは、それに必要なスケールをキャッチアップしなければなりません。パンデミックによって指数級数的に成長しているビジネスもあれば、さまざまな困難に直面しているビジネスもあります。来月のビジネスの状況について分かる人はいません。まして来年のことは、誰にも分からないのです。これほど目まぐるしく変化する環境において、どこかから、誰かからのイノベーションが、これまでにも増して必要とされています。
それこそがまさに、オープンソースが提供するものなのです。そして私たちCNCFの目標も、この実践者たちの基盤をサポートすることによって、クラウドエコシステムがその潜在的能力を最大限に発揮できるようにすることであるのに変わりはありません。このエコシステムにはプロジェクトのクリエータ、メンテナ、コントリビュータ、テクノロジを提供するビルダ、テクノロジを利用するエンドユーザの他、プロジェクトの進行を裏で支えるたくさんの陰の英雄たち(unsung heroes)がいるのです。
InfoQ: DE&I(Diversity、Equity、& Inclusion)について聞かせてください。全般的に見て、CNCFのDE&Iの状況には満足していますか、そうでないとすれば、何か具体的な行動をしているのでしょうか?
Sharma: オープンソースはある意味で、社会の最も望ましい姿を反映しています -- 世界中から人々が集まって、テクノロジに感銘した人たちの抱える問題や、時には社会の改善のためにソリューションを提供するのです。
一方で、この相互支援的な環境においても、過小評価されるコミュニティが直面する課題には意味があります。教育システムの持つ体系的な問題は、私たちの業界において、これまで多くの才能ある個人が発掘され、成功を収めるのを妨げてきました。
基本線としてCNCFは、Black Lives Matter運動や、すべての人々に対する公平性と強く連携しています。その一方で、最近の出来事は、財団(foundation)であり、オープンソースのエコシステムである私たちに、もっと多くを理解し、主張し、実践する必要があることを教えてくれました。私は個人として、人種的問題のある用語をコードから根絶するプロジェクトに関わっています。
具体的な行動としてCNCFでは、クラウドネイティブエコシステム内の性的および人種的バランスを改善する活動を積極的に行っています。CNCFでは2016年から、これまでテクノロジないしオープンソースのコミュニティにおいて過小評価や疎外を受けてきたグループ -- LGBTQと言われる人たち、有色人種(persons of color)、障害者など -- を対象に、KubeCon + CloudNativeイベントに参加するための多様性スカラシップを1,000件以上提供してきました。
彼らの声が聞こえるようにするための支援も行っています。2019年のショーでは、基調講演の42パーセントが女性ないしノンバイナリ(non-binary)/第3の性の人たちによって行われました。250人以上が参加したDiversity Lunch + Hackでは、多様性と包括性に関するラウンドテーブルディスカッションと、Kubernetesのハンズオンの機会提供が同時に行われています。
クラウドネイティブコミュニテの多様性には素晴らしいものがあるので、誰でも安心して参加して頂ければと思っています。そのために私たちは、多くの人たちと一緒に、人種的に偏りのあることばをソフトウェアコードから根絶するための活動をしているのです。
InfoQ: この新たな世界におけるクラウドコンピューティングとCNCFについて、またそれが現在、そして今後、どのような影響を与えていくのかについて、話して頂けますか?
Sharma: CNCF、クラウドネイティブコミュニティ、オープンソースは、まさに私たちの世界が直面する予測不能な問題のために作られたものなのです。
パンデミックに対処するためだけではなく、企業が、政治が、経済全体が、かつてないほど強く、より迅速に、よりアジャイルに、より革新的になるためには、どこからでも、そしてどこにでも、イノベーションが必要です。オープンソースは -- クラウドや私たちのような人たちのコラボレーションによって、その潜在能力のすべてが解き放たれた時 -- その鍵となるでしょう。エコシステムはかつてないほど、支援を必要としています。COVID-19パンデミックによって、クラウドの採用は大幅に増加しました。ワークフローはこれまでにない早さでオンラインに移行しています。オンラインバンキングやEコマースを利用する人も増えています。私たちは大きな転換期の真っ只中にいるのです。結果として、オンライン消費の増大に伴い、その巨大なトラフィックをサポートするために、多くの企業がクラウドネイティブになっています。
クラウドネイティブの要求が増えることで、エコシステムをサポートするCNCFへのニーズも増えています。財団としての私たちには、教育と実現、認定、トレーニングプログラムなどを通じたエンドユーザのサポートが求められています -- キャズムを越え、新しい、よりオンラインな現実に導く必要があるのです。新たな開発機会を探している人々、パンデミックの環境下で成長するための新技術を必要とする企業をサポートしなければなりません。私の基本的な考え方はすべてに"イエス"と応えることです -- そして、すべての人たちに提供できない可能性がある時に、ほんの少しだけ足を止めるのです。
CNCFの中核的なミッションは、クラウドネイティブコンピューティングをユビキタスなものにする、ということです。パンデミックの前もそうでしたし、現在もそれは変わりません。
InfoQ: Kubernetsコミュニティが大きな成功を収めていることは間違いありません。CNCFから今後登場する他のどのようなテクノロジやトレンドに、開発者やアーキテクトは注目するべきでしょうか?
Sharma: 今後数年間、コミュニティを形作るであろうトレンドは、次のようなものだと思っています。
もうひとつのトレンドとなりそうなのが、エンドユーザ参加の拡大です。これまでは、Google、Netflix、Amazonなど、分散システムで先行した企業がこの役割を担い、大きな成果を上げました。しかし、2016年を境に、状況は変わっています。現在ではエンドユーザがますます高度になっているので、お互いを、ベンダを、そして状況の進化をリードしていくようになるでしょう。さらなるコラボレーションと双方向のイノベーションが予想されます。
- "パンデミック"コンピュータリソースへの需要の拡大
- DevSecOpsの興隆
- エッジとIoTが先導する新たなデバイスの世界
- さらなる多様性とより多様な開発。・多様性は卓越性を創造する重要なものなので、その発展を支援しなければなりません。
- エンドユーザコミュニティが引き起こすオープンソースイノベーションの大波
サーバレスやサービスメッシュが私たちのエコシステムにおいて、議論の重要なテーマになることは間違いありません。クラウドネイティブエクスペリエンスを完成させるために、より多くのプロジェクトを迎え入れたいと強く思っています。魅力的な仕事をしているコアインフラストラクチャプロジェクトと、それに関連して開発者エクスペリエンスを改善することできるアフェリエイト的なプロジェクトとがあります。クラウドネイティブインフラストラクチャの周囲にあるプロジェクトは、クラウドネイティブテクノロジを使用することによるWeb開発者やアプリケーション開発者の生産性の向上をより大きなものにします。
InfoQ: 次週のKubeCon + CloudNativeConについて聞かせてください。今回のポイントは何で、それは従来のKubeconsや他のウェビナとはどのように違うのでしょうか?
Sharma: 初めての仮想KubeCon + CloudNativeConイベントなので、教育的で、魅力的で、何よりも面白いものになるように、チームは努力を続けています。
イベントに含まれるのは次のものです。
- 445講演者
- 319セッション(合計)
- 210ブレークアウト
- 89メンテナ・トラック・セッション
- 8 ライトニングトーク
- 7 チュートリアル
- 5 101(初心者)トラック・セッション
- プラットフォーム内のチャットを介したライブQ&A
- 驚きと楽しみのエクスペリエンス: https://events.linuxfoundation.org/kubecon-cloudnativecon-europe/attend/experiences/
KubeConが他の小規模なコンテントと大きく違うのは、先端のクラウドネイティブテクノロジによるインタラクティブ性、ゲーム、ライブチャットです。ここがまさしく、私たちすべてがひとつに集まることのできる場所なのです。KubeCon EU Virtualにおけるエネルギは、かつて目にしたことのないものになるでしょう。
InfoQ: 付け加えたいこと、読者に対して共有あるいは言及しておきたいことはありますか?
Sharma: 今は多くの人たちにとって、困難の時代です。団結することが必要なのです。#TeamCloudNative は2020年、かつてないほど強くなるでしょう。次週のKubeCon + CloudNativeCon EU Virtualに参加して、クラウドネイティブのパワーを体験してください。
サインアップはこちらです — https://events.linuxfoundation.org/kubecon-cloudnativecon-europe/
CNCFが関与する無数のプロジェクトのリストはCNCF Cloud Native Interactive Landscapeにリストされている。