ソフトウェアツールTerraformの提供企業であるHashiCorpが、自社のプロダクトをAWS、Azure、GCP上のマネージドサービスとして運用するプラットフォームを発表した。これによって同社のエンタープライズサービスは、マルチクラウド環境にフォーカスしたものへと拡張される。
6月末のHashiConf Digitalカンファレンスで、HashiCorpは、同社のオープンソースプロダクトのマネージドツールであるHashiCorp Cloud Platform(HCP)のプライベートベータをローンチした。カスタマは単一セットのAPIを使って、Terraform、Vault、Nomad。Consulを、マルチクラウド環境にデプロイすることが可能になる。
Terraformは現在、複数のクラウドプロバイダを対象にしたリソースのプロビジョニングやコンフィギュレーションを行うための人気ツールであり、HashiCorpのコンフィギュレーション言語であるHCLは、GitHub上で最も急成長した言語のひとつになっている。同社でプロダクトマーケティングを担当するディレクタのRobert Genova氏は、HCPとTerraformによる運用との違いを次のように説明する。
HCPを通じてデプロイされるHashiCorpのプロダクトは、ベストプラクティスに事前設定されており、デプロイ後はHashiCorpがすべて管理を行います。Terraformでは、コンフィギュレーションファイルの用意、マシンイメージの構築、アップグレード作業、バックアップ、スケーリングなどは、依然としてユーザが行わなくてはなりません。
インフラストラクチャの自動スタートアップは現在、従量課金(pay-as-you-go)アプローチによるマネージド運用モデルへと移りつつある。今回の新プラットフォームは、HCP Consulと、6月末からGA提供されているHashiCorp Consul Service (HCS) on Azureの両方で利用されている。HashiCorpの創業者であるMitchell Hashimoto氏は、次のようにツイートした。
本当に嬉しく思っているのは、これが当社としては初のマネージドサービスのGA提供であることと、さらなるプロダクトやプロバイダへと拡張する可能性を持った中核的なクラウドプラットフォーム上に構築されていることです。
ただし、現時点でのHCSは分離型のマネージドサービスであり、Azureマーケットプレース内で提供されている。HashiCorpコンソール経由でHCPとして利用可能な、Microsoftプラットフォーム上の抽象化レイヤではない。また、新しいHCPコンソールからTerraform、Vault、Nomadをマネージドサービスとしてアクセス可能になるには、もう少し時間が必要である。現時点のHCPは、AWS用のHCP Consulという単一クラウドプロバイダ上の単一サービスを、プライベートベータとしてのみサポートしている。同社は年内に一般公開を完了し、続いてAzureとGoogle CloudをサポートするHCP Vaultを提供する計画である。
イメージ引用: https://www.hashicorp.com/blog/announcing-cloud-platform/
移植性はオーケストレーションの重要なメリットだが、マルチクラウド対応やクロスプロバイダクラスタリングが広範に採用されることに、すべての人々が同意している訳ではない。iRobotでクラウドロボティックスを研究する科学者のBen Kehoe氏は、次のように指摘する。
(...) カウ・ティッピング(訳注:立ったまま眠っている牛を押し倒す悪戯)のようなものです。カウ・ティッピングが事実でないことは証明はできます。YouTubeにそのビデオがないからです。マルチスレッド戦略を語る人はたくさんいますが、"こんな痛い目にあったのでマルチクラウドは止めました"とか、"マルチクラウドのおかげでこんなに助かりました"というように、実例を示す人は見たことがありません。
ただし、ひとつのクラウドプロバイダのみのカスタマにも、HCPによるデプロイメント管理のための組み込みワークフローを利用できるというメリットはある。