企業文化は短期間には構築できないし、押し付けることもできない。企業文化は創業者のイデオロギや、仕事に関わる振る舞いに深く根差している。そこから成長し、価値観を共有する個人が雇用されることで独自に進展すると同時に、個人の持つアイデンティティが文化の中に織り込まれていくのだ。
MURALでカルチャとコラボレーションを担当する責任者のLaila von Alvensleben氏は、Remote Forever Summit 2020でリモートカルチャについて講演する。同サミットは11月10~17日にオンラインで開催される。
何かを表現しようという積極的な意思がなければ、企業文化はいとも簡単に"骨抜き(watered down)"になり、特に危機的状況においては、人々を結び付けようとする力を失ってしまう、というのがvon Alvensleben氏の考えだ。
文化を意識的に構築する方法はいくつもある、と氏は説明する。
企業文化の形成に関しては、専任でアドボケートを担当する個人あるいはチームを置く企業も、創業者が積極的に関与する企業もあります。どのような手段を取るにせよ、社員がチームと共に働き、企業のミッションに献身するように動機付けられるような環境を作ることが目的です。
von Alvensleben氏によれば、文化の構築は1個人や1グループの責任ではない — それは継続的なプロセスであり、企業規模の努力によるものなのだ。
チームメイトとのつながりを深め、信念を行動に移すために実行できる、定型的な手法や慣習が存在します。例えば、チーム間ないし組織全体で社交的なイベントを定期的に行うことは、企業文化を創造する上で有効です。必ずしも娯楽目的である必要はありません — ワークショップやタウンホールミーティングでもよいのです。
Laila von Alvensleben氏に、リモート文化を意図的に創造し育てる方法について聞いた。
InfoQ: 文化を意識しなければならない理由は何なのでしょう、また、なぜそれが問題になるのでしょうか?
Laila von Alvensleben: 文化は社員間の関係性や仕事、個人的な幸福感に影響を与えます。現在のように、企業がコントロール不可能な外部環境への適応を強いられている困難な状況においては、文化に対して意図的であることがこれまで以上に重要な意味を持ちます。確立した作業文化は、社員に対して安心感を与えると同時に、外部的圧力に関わらず自身のベストワークを続けることを可能にします。マイルストンの達成を共に認め、共に祝うことが等しく重要である理由もここにあるのです。
InfoQ: MURALの企業文化はどのようなものなのでしょうか?
von Alvensleben: 仕事は場所ではありません、チームが協力して成し遂げるものです。MURALには社内的にも、顧客に対しても、極めて協力的な文化があります。当社の中核となる原則が、私たちが日々学び、改善し、仕事を成果を祝うための指針となっているのです。私たちは、誰もが"他の人たちを幸せ"にできる、という信念を持っています。最終的にはこれが、他人を助けるために時間を割く人たちの行動として現れているのです(この価値観は間違いなく、当社の創業者がStartup-in-Residency Programに参加した際に、IDEOから拝借したものです!)。当然のことながら、この人間中心のアプローチは、デザイン思考におけるMURALの歴史に由来するものであり、絶えることのない当社の創造性をも形作っています。当社は常にプロトタイプやイテレーションを行って、革新的な機能やサービス、そしてよりよい働き方を考え出す努力をしています。MURALでは、私たちすべてがイマジネーションワーカ — さまざまな背景や規律を持った人々が協力し合い、問題解決に向けて共に努力する存在であると信じているのです。
InfoQ: Remote Forever Summit 2020では、250人を超える社員に仮想リトリート(virtual retreat)を用意した話題を取り上げていますが、どのようなものだったのか、詳しく説明して頂けますか?
von Alvensleben: 企業として仮想リトリートを取り入れたのは、今年が初めてです(そしておそらく、最後ではありません)。昨年の直接顔を合わせたリトリートとは明らかに大きく異なるものでした。昨年は、120人を超えるアルゼンチンのMURAL社員が一堂に会して、ワークショップやチームによるアクティビティを通じて顔見知りとなり、1週間にわたって祝賀を行いました。
当地で移動制限が実施されることは分かっていたので、250人の社員を対象とした3時間のオンラインイベントを開催して、いつものチーム以外の人たちと顔を合わせ、エクスペリエンスの共有を通じて笑い合ったり絆を深めたりしました。今回のイベントを特別な機会にしたかったので、全社員をMURAL World Tourに招待することにしました。物理的な旅行ができなくても、仮想空間でハッピーな催しにすることができたのです!この旅は、搭乗招待状を持ってZoom内の仮想出発ゲートで出会うことから始まります。リトリートの前には、4大陸すべての従業員に対して、安眠マスク、リップクリーム、日焼け止め、ポータブルファン、スナック、パーティライトあるいはウェアラブルといった、小道具を詰めたパックが配布されました。オンラインイベントへの参加に先立って、全員にこのパックを開けてもらい、ワールドツアーのさまざまなシチュエーションでこれらを使えるようにしておいてもらったのです。さらに、特別なZoom用バックグラウンド集も全員に配布して、仮想的な到着地毎にアップロードして切り替えてもらうようにしました。
航空搭乗員をボランティアで演じてくれた素晴らしいチームのおかげで、パイロットやフライトアテンダント、航空管制、機内食やエンターテイメントまで完備した中で、雪山から爽快なビーチ、さらには宇宙までの旅行を楽しむことができたのです。それぞれの目的地では、仮想"出会いパーティ(speed dating)"や脱出ゲーム(もちろんMURAL内で)、さらには新たに結成されたMURALバンドによるFoo Fightersのカバーパフォーマンスなどのアクティビティが行われました。
InfoQ: 仮想リトリートを行ったことで、どのようなメリットがありましたか?
von Alvensleben: 仮想リトリートが可能であること、十分な考慮と準備があれば非常に魅力的なものになり得ることが証明できました。日々の作業で顔を合わせることのない人々が一堂に会する、という目標は間違いなく達成できましたし、これまでに経験はおろか、想像さえしたことのないユニークなオンラインアドベンチャーの水準を、さらに高くすることができたのです!困難な月日とロックダウン(特にアルゼンチンのチームメイトにとって)の長く続く中で、手軽で楽しいチーム構築アクティビティを通じた人々の結び付きが、社員のモラル向上に役立っています。MURAL内で行った脱出ゲームは、当社のプロダクトや機能を新たな方法で使用可能な方法を独自かつ創造的に示したものですし、仮想コンサートでは、生活上の制限を課せられた私たちが待ち望んでいたソーシャルエクスペリエンスを再現することができました。予期せぬことでしたが、ボランティアの果たした役割の中から、印象的な活動を行うタレントも見つかりました。この時に結成された音楽バンドは、現在では新たなカバーソングを社内のニュースレターに毎月リリースしています!間違いなくたくさんのことを学びましたし、将来の仮想オフサイト実現に向けた改善方法についても検討を始めています。
InfoQ: リモート作業文化を促進するためには、何ができるのでしょう?
von Alvensleben: 私たちMURALは、"自分たち自身のシャンペンを飲んでいる"、と言っていいでしょう。要するに、リモートワークは当社のDNAの一部なのです。当社のプロダクトが実現するものというだけでなく、それ自体が当社のミッションであり、存在意義なのです。当社は世界中17か国で、250人を越えるチームメンバを採用しています。MURAL以外にもDropboxやZoom、Slackなど、さまざまなコラボレーションツールを駆使して全員のつながりを確保しています。5人のミーティングでも、会社全体の250人以上が参加する場合でも、全員が同じ部屋にいるかのように、誰でも発言することができます。
企業規模のコミュニケーションはさらに、文書の上でも、実際の会話においても、文化を伝達する上で重要な役割を果たします。始まりは採用です。人を雇えば、その人が企業文化に影響を与えます。MURALのように急成長した企業において、その従業員数や地理的広がりの拡張に伴う企業文化の進展に対して、より多くの注意を払わなければならない理由はそこにあります。当社では特に、親切さ、誠実さ、協調性の組み合わせを厳しくスクリーニングすることで、周囲からの信頼を自然に高められるような、多様性のあるチーム構築を目指しています。結局のところは、古き良き時代のスタイルである、優れた作業に対する誠意や熱意といったものに置き換わるようなツールやハックは存在しないのです。スキルは学ぶことができますが、人としての正しさはそうではありません。避けることのできない困難な時代における対応の方法もまた、私たちの企業文化を定義するもののひとつです。ですから、難しい判断を下すときには、それを心に留めておくことが重要です。