意図的組織(intentional organization)の構築には、組織を構築するブロックのすべてを総体的に把握する考え方が求められる。重要なのはリーダシップだ。マネージャの行動に伴って生ずる組織的な結果は、組織がその目的を達成できるためのデザインに沿ったものでなければならない。
Sergio Caredda氏はStretch Online 2020で、組織設計と意図的組織の構築について講演した。
私たちは組織の設計に際して、出来合いのソリューションを買い求められるかのようにアプローチすることが非常に多い、とCaredda氏は指摘し、多くの組織に見られるアジャイルソフトウェア開発方法論の実践を引き合いに出した。
少数のチームがアジャイルを実践するだけでは、組織をアジャイルにすることはできません。なぜでしょう?それには、アジャイル開発を導入する一方で、投資に対して承認の必要な、従来型予算プロセスの運用を続ける企業がどれほど多いか、ということを考えてみてください。あるいは、アジャイル環境の求めるフラットな階層組織に対して、給与や報奨金といった制度がほとんど適応できていない現状を想像してください。
それぞれの組織が、その目的の達成に必要な独自のデザインを形成する上においては、それに適したリーダシップモードを定義することが必要になる、とCaredda氏は主張する。
意図的組織は、完璧ではないにせよ、内部的なサイロや部門間の亀裂を越えて一貫性を追求する方法を継続的に追及する存在なのだ、とCaredda氏は言う。
Sergio Caredda氏に、意図的組織の設計についてインタビューした。
InfoQ: 組織の設計について、あなたの見解を聞かせてください。
Sergio Caredda: 組織設計は、誤解されているプラクティスのひとつだと思います。多くの組織では、すべての人が何らかの形で組織設計に関わっています。マネージャは組織図と機能設計プロセスの構築と更新を行い、IT部門はデータフローと企業アーキテクチャ資料を作成し、人事部門はさまざまな変革プロジェクトをサポートする責任を負う、という具合にです。これらの行動のすべてが、しかしながら、別々に行われているのが現状です。
そうではなく、すべての機能が組織の設計において協調し、構造的な一貫性を持つことができれば、それは"理想的な世界(ideal world)"です。組織設計のコンピテンシが組織全体に広まり、すべてのマネージャが自身の意思決定の組織的な影響を理解することになるでしょう。
InfoQ: 意図的組織というのは、どのようなものなのでしょう? 意図的であるというのは、どういうことなのでしょうか?
Caredda: 先程、"理想的な世界"と言ったものが、意図的組織の姿です。具体的な組織モデルではなく、すべての構成要素の間において調和的かつ進化的な関係が確立している組織なのです。
ひとつ例を挙げましょう。理想的な組織では、運用モデル(システムやプロセス、人々、テクノロジが協調的に機能する方法)と、企業アーキテクチャ(データや情報が組織全体を流通する方法の表現)との間に、完全な整合性が存在しています。ですから、企業エンジニアが技術的イノベーションを取り込み、そのアーキテクチャを改める場合には、運用モデルへの影響の観点から考える必要があるのです。
InfoQ: 組織設計において、リーダシップはどのような役割を果たすのでしょうか?
Caredda: 私の見解として、意図的組織の設計とは、何よりも熟慮されたリーダシップ(deliberate leadership)によって行われるものなのです。
私はこれを、組織に属する各人が、その組織に影響のある意思決定を継続的に行うことである、と認識しています。パフォーマンス管理プロセスを妨害するという意思決定をするマネージャ、より多様な社員の採用を決定するマネージャ、新たな官僚的ルールを確立するマネージャ、プロセスを変えずに新たなソフトウェアを選択するマネージャ、オフィス空間をデザインするマネージャ、などを考えてみてください。
これらのアクションにはすべて組織的な影響が伴うのですが、それが考慮されていないことが非常に多いのです。多くの新たな機能が生み出されますが、その大部分は不整合なものです。そのため、フラットな組織を構築したと自負するリーダの多くは、結果的に意図しなかった社内の官僚構造と階層構造を目の当たりにすることになるのです。
私は何も、特定のリーダシップスタイルを推奨している訳ではありません。実際に私が調べたところ、150を越えるリーダシップモデルが見つかりました。それぞれに長所と短所があります。状況に大きく依存しているのです。
InfoQ: 組織のサステナビリティを促進するには、どうすればよいのでしょうか?
Caredda: 意図的組織というコンテキストにおけるサステナビリティは、一般的なものより広い意味を持っています。私が考えるサステナビリティとは、目的を達成するために組織が存在し続ける能力です。
企業が属するエコシステムとの関係を新たな方法で解釈することによって、これが実現します。ここで重要なのは、エコシステムと環境(environment)を区別することです。私たちはみな環境全体の一部ですが、私たちが絆を持ち、関係を築き、実際に行動できるのは、エコシステムの中でのみなのです。
これはつまり、ステークホルダたちのネットワーク全体を認識し、それらの関係をサポートする意図の流れを理解する、ということになります。
このような関係を支配するのは金銭的価値である、と私たちは常々思っていますが、これはそうではありません。ユーザはなぜ、私たちのプロダクトを選んでくれるのか? 投資家はなぜ、私たちの株を買ってくれるのか? 求職者はなぜ、私たちの採用に応募してくれるのか? サプライヤはなぜ、私たちと関係を持ってくれるのか?
最近はこういった"意図"のいくつかを後押しする目的で、ブランディングという形式でのマーケティング活動が広範に行われていますが、これは回答の一部に過ぎません。私たちはこの問題が、私たちの組織設計の一部になることを理解する必要があります。
意図のポジティブな流れの創造は、長期的な関係性の構築を確実なものにし、対脆弱性の創造を支援します。
企業の社会的責任が組織内の単なる部署名でしかなければ、それは単なるお題目なのではないか、という疑念を持たずにはいられなくなります。そうではなく、組織自体が生き残るための手段にまで昇華しているのであれば、私たちが最も必要とする内部一貫性という資産のひとつになるのです。
InfoQ: 組織のイノベーション能力を向上するために、何ができるでしょうか?
Caredda: イノベーションは、多くの組織が誤ちを犯しているトピックです。ほとんどの書籍や記事では、創造性を促進する必要性に重点を置いていますが、それ以外の問題を経験したのは私だけではないはずです — 多くの場合、大変なのはアイデアを実験し、実践することなのです。その理由は、組織の選択と必然的に関連しています。
典型的な例が、最前線の従業員が顧客サービス改善の優れたアイデアを思い付いた時です。そのアイデアを、組織内を通じて適切な意思決定者に伝えるにはどうすればよいか? 組織はイノベーションの決定をごく少数の人々に制限していて、官僚的な層構造が、新たなアイデアが上部に流れるのを阻止しているのです。
真に意図的な組織であれば、イノベーションが新たなプロダクトやサービスの発見であると同時に、組織的な実験でもあることを受け入れます。新たなアイデアのための内部的なセンスメイキング(sense-making)メカニズムを構築すると同時に、組織全体としてイノベーションを受け入れることが必要です。