Eclipse IDEの初回リリースから17年を経て、その"持続可能性、完全性、進化、適用を継続"する目的で、Eclipse IDE Working Group(WG)が設立された。趣意書には、資金調達の確立と推進、リリース計画の監督、同時リリースの調整、エコシステムおよびEclipse Marketplaceの成長と進展の支援、関連するオープンソースプロジェクトへのガバナンス提供、が挙げられている。
加えて、"市場に対する'Eclipse IDE'ブランドとその価値をプロモートし、ベンダニュートラルなマーケティングを提供"すると同時に、"Eclipse Foundationライセンスと知的財産の流通を活用"する。
Eclipse IDE WGに資金を提供する組織には、Bosch、ElipseSource、IBM、Kichwa Coders、Renesas、SAP、VMware、Yatta Solutionなどが名を連ねている。
Renesas Electronics CorporationのIoT and Infurastructure Business UnitでSoftware Development Divisionを統括するバイスプレジデントのAkiya Fukui氏は、今回の新しいワーキンググループの重要性について、次のように述べている。
Renesasは、Eclipse IDEワーキンググループに積極的な投資を行うことで、同プラットフォームが将来にわたってその重要性と保守性を維持できるようにします。
また、YattaのCOOであるManuel Bork氏は、
Eclipse IDEは、エンドユーザやコミッタ、ツール開発者、およびそれをベースとしてアプリケーションを開発する人たちにとって、今以上に重要かつ魅力的なものになる必要があると考えています。
Javaコミュニティの中には、Eclipse Foundationが17年にわたって独自の活動を続けた今になって、なぜワーキンググループを設立する必要があるのか、疑問に思うものもあるかも知れない。この数年間、数多くのEclipse Foundationワーキンググループが生まれてきた。Jakarta EE、OSGi、Adoptiumのワーキンググループは、Eclipse Foundationに参加後まもなく設立されたが、2016年12月に参加したMicroProfile WGが確立されたのは2020年10月のことだ。
Red HatでSmallRyeプロジェクトのリーダを務めるRoberto Cortez氏は、MicroProfileコミュニティのこれまでの作業を振り返って、次のように記している。
過去4年以上の間、MicroProfileコミュニティは予想をはるかに超えて成長しました。ライトウエイトなプロセス、ベンダ中立性、透明性、アカウンタビリティ、イノベーション、実装主義(implementation first)といった、当初からMicroProfileの一部であった基本的価値観が、プロジェクト成功の鍵であると思います。
4年間の独立的な活動の後に、MicroProfileがワーキンググループを設立したことのメリットについて、Red HatのシニアプリンシパルプロダクトマネージャであるJohn Clingan氏は、InfoQに次のように語っている。
MicroProfile Working Groupを設立した最も大きな動機は、Eclipse Foundationが仕様プロジェクトに対して指摘した、知的財産のギャップを埋めることです。そのため、MicroProfileがWorking Groupになった現在は、以前より多くの法的保護が実施されています。
ワーキンググループによって、MicroPfofileのプロセスも増えました。これまでのMicroProfileは、まずは最小プロセスで実施し、判断を後付けするやり方でした。非常に速いペースで仕様を提供する、完全なアジャイルプロジェクトだったのです。
2021年6月1日の議事録によると、Eclipse IDE WGは、"ワーキンググループが重要な理由とその動機に関する明確な声明"の提供と、"なぜこのタイミングなのか"、"長く存在してきたIDEプロジェクトと何が違うのか"といった疑問への回答を計画している。
Eclipse newsletterは、これらの疑問に明確には答えていないが、そのメッセージは明らかだ。
[ワーキンググループは]Eclipse IDEのソフトウェアコンポーネントを提供し、メンテナンスするためのガバナンスサポート、ガイダンス、資金をコミュニティに提供します。同時に、関連する計画やソフトウェアスイートのデリバリプロセス、デリバリテクノロジの監視も行います。
Eclipse IDEプロジェクトファミリの将来は、公開された強固なビジョンに基いたものになります。このビジョンは、今後ソフトウェアが進化する過程において、その重要性、持続性、高い品質を保ち続けることを、長きにわたって保証するものです。
Elicpse IDEの同期リリース(Simultaneous Release)スケジュールのレビューでは、約70のサブプロジェクトにおける新機能の開発が減少している現状から、持続可能性を維持することの必要性に注目が集まっている。以下の表はサブプロジェクトを、最新リリース日によってグループ分けしたものだ。
現行リリースの2021-06と昨年の2020-06を比較すれば、その減少は明らかだ — サブプロジェクトの全体数が7パーセント少なくなり、リリースを実施したセブプロジェクトが63パーセントから47パーセントに減少する一方で、1年以上リリースのないプロジェクトは8パーセントから22パーセントとほぼ3倍増している。あるプロジェクトは、同期リリースから離脱した理由として、年間最大16のリリース(各リリースに3つのマイルストンビルドがある)の作成と、"絶えず変更Eclipseビルドインフラストラクチャの継続的な変更"に対処する作業を挙げている。
この減少に対して、COVID-19パンデミックがどの程度影響しているかは明らかではない。2020-06リリース開発の最後の3か月間も、パンデミック中に行われていたからだ。
Eclipse IDE "New & Notewarthy"リリースノートには、"同期リリースのコーディネーション"を改善する必要が指摘されている。他のIDEとは異なり、Eclipse IDEのリリースノートには要約がなく、スタイルやフォーマットのまちまちな、サブプロジェクトのイシューリストへのリンクがあるのみだ。掲載されているサブプロジェクトの新リリースが半分以下である一方で、変更されていないプロジェクトが含まれていたり、最新の4回の同期リリースではサブプロジェクト数が実際よりも2~3多かったりと、一貫性にも欠けるように思われる。以下の図は、リリースノートで取り上げられたサブプロジェクトをグループ化したものだ。
今一度2021-06と2020-06のEclips IDEリリースを比較してみると、リリースノートに取り上げられた新プロジェクト(New & In)と取り上げられていない新プロジェクト(New & Missing)がそれぞれ44パーセントおよび56パーセントで変わらないのに対して、新たなリリースのないサブプロジェクト(Old & In)が12パーセントから24パーセントに倍増していることが分かる。
Stack Overflowの2021 Developer Surveyには、"Eclipseがエンドユーザにとって、より重要かつ魅力的なものになる必要がある"理由が表れている — 12,955人の回答者中69パーセントがEclipseを使用したくないと答えており、NetBeansに次いで悪いスコアなのだ。対照的に、23,467人の開発者の68パーセントはIntelliJを、58,026人の開発者の79パーセントはVisual Studio Codeを、それぞれ好んでいる。
ワーキンググループは2021年4月20日から2週間毎にミーティングを開いており、本記事執筆時点における最新のミーティングは2021年7月13日である。Eclipse IDE WGの議事録はこのメーリングリストで確認することができる。