ソフトウエア開発の生産性を高めるには、集中力に注意し、継続することが必要だ。特にロックダウン期間において、技術者たちはストレスや集中力の欠如、その他の精神的な問題に直面しており、それに伴う注意力やモチベーション低下に苛まれている、とEmna Ayadi氏は言う。技術者がプロフェッショナルとしてのキャリアを広げていくために、氏が提案するのは、テストとマインドフルネスを組み合わせることだ。
テストコンサルタントであるAyadi氏は、技術者が業務時間外に自身のスキルを伸ばし、プロフェッショナルとしてのキャリアを広げるための方法をテーマとして、CoTEST 2021で講演を行った。その中で氏が紹介した方法のひとつが、日々の技術開発の中にマインドフルネスとメディエーションを取り入れることだ。
マインドフルネスは、一部の人たちには自明なもの、あるいは無意味なものに思われるかも知れない。テクノロジとは直接的な関わりを持たない、まったく違う領域のものだからだ。しかし実際には、集中力を向上するための優れた方法であり、我々技術者のすべてに必要なものなのだ、とAyadi氏は説明する。
マインドフルネスとは、目の前にあるものだけに集中する、ということです。ひとつのものに集中し、雑念を取り除くことによって、ハイパフォーマンスな学習と成長が可能になります。
メディエーション(瞑想)について、氏は、いかに長くその場に留まれるかではなく、どれくらいの頻度で自分の注意を現在の瞬間に戻すことができるのかが問題なのだ、と説明する。
"マインドフルネス"と"メディエーション"はいずれも21世紀に現れた用語だが、多くの分野において、ますます一般的に使われるようになってきている、とAyadi氏は言う。
テストにおいてマインドフルネスを実践するために、Ayadi氏は、次のことを推奨する。
- 落ち着くことのできる場所を探す
- アクティビティのための小さな時間枠を設ける
- テスタとしてソフトウェアを調査する前に深呼吸して、吐いたり吸ったりする呼吸の感覚に従う
- 自分の気持ちを尊重し、常に今の瞬間に立ち返るようにする
メディエーションによって次のことが可能になる、とAyadi氏は言う。
- リラックスする方法を教えてくれるので、ストレスの多い状況において新たな視点を得ることができる
- イマジネーションと創造力が向上する
- 忍耐力と寛容性が向上する
- 怒りや焦りといった、無益で反応的な感情に対処できる
- 不要な考えを取り除き、実際のエクスペリエンスに集中する
技術者と技術チームにとってのマインドフルネスとメディエーションについて、Emna Ayadi氏に話を聞いた。
InfoQ: マインドフルネスをどのようにして知ったのですか?
Emna Ayadi: ヨガの基本や、メディエーションということばについては、以前から知っていました。数年前、ベルギーのリエージュで2019年に開催されたJournée Agile Conferenceに参加した時に、メディエーションの話を聞いたのです。カンファレンスでは、参加者全員に向けた特別な音楽や、マインドフルネスに関連したいくつかのエクササイズがセッションに含まれていました。基調講演の前にも行われていたのです。
これにはびっくりしました!ちょっとしたエクササイズや特別な音楽が、一日中、集中力を保つためのエネルギや能力を参加者に与えてくれる、ということが驚きだったのです。
InfoQ: マインドフルネスやメディエーションには、どのような効果があるのでしょうか?
Ayadi: Ed & Deb Shapiro氏のことばを借りて、ふたつの用語の関係を定義したいと思います。
"マインドフルネスとメディエーションは、それぞれが鏡の写像のようなものです — マインドフルネスがメディエーションを豊かなものにし、メディエーションはマインドフルネスを育み広げるのです。マインドフルネスが一日を通じてすべての状況に適応できるのに対して、メディエーションは一般的に特別な時間を設けて行うものである、という違いはあります。" (Mindfulness & Meditation: What's the Difference?)
イマジネーションと創造性の例としては、私の好きなテスト関連のことばを紹介して、マインドフルネスと創造性の関係を説明したいと思います。
テストとは、目に見えないものと曖昧なものとを比較することで、見知らぬ誰かが考えられない事態に合うことを回避するプロセスである。- James Bach
目に見えないものに注意を払わない、拙速に過ぎる考え方は、創造的であるとは言えません。それは自分自身にとってのみ幸せな道なのであって、まだ知らない、未知のものを見落とすリスクをはらんでいます。
では、このテストの定義に効果的に対応して、見知らぬ誰かが考えられない事態に合うことを回避するには、一体どうすればよいのでしょうか?テスタが効果的で創造的な探求を行う上で必要なのは、ゆっくり考えて、精神のすべてを集中することである、と私は思っています。マインドフルネスはテスタとチームの創造性を高めることで、テスタの考え方をよりよいものにしてくれます。
InfoQ: マインドフルネスはチームでも実践できるものなのでしょうか?
Ayadi: もちろんです。チームは日々のルーチンワークにおいて、マインドフルネスを実践する方法を見出す必要があります。
単純な例として、テストセッションを始める前に自身の"テストゾーン"を確認してください。これはテスタがタスクに集中する上で有効な、特殊な精神状態です。この状態に到達するには、求められているテスト作業を実践する前に、関連メンバが5分間の瞑想(メディエーション)を行う必要があります。
5分間のエクササイズの内容は次のようなものです。
- 快適なポジションを見つける
- 目を閉じる
- 深呼吸する
- 呼吸のリズムをコントロールする
メディエーションの力を借りることで、騒がしいオープンな作業スペースにおいても、落ち着いて集中し続けることが可能になります。このように、辛抱強く、より効果的な方法で、ソフトウェアテストを行ってください!
InfoQ: マインドフルネスを実践することで、どのようなメリットがありましたか?
Ayadi: 個人的な話題になりますが、
私は最近、学習やリモートカンファレンス、ミートアップの主催など、さまざまなことに携わっています。これらすべてを管理するのは簡単ではありませんでした。その点で強くストレスを感じていましたし、何かをする時間を持つこともできなかったので、いらいらして、集中できなくなっていました。自分の決めた目標が達成できないように、ブロックされたように感じていたのです。
そこで、すべてのことを止めて、少しの間、リラックスした深呼吸を行いながら、マインドフルネスに導いてくれるようなヨガのエクササイズをいくつか行ってみました。しばらくすると、元気を取り戻して、新鮮な心と新たな気持ちで課題に立ち向かえるようになったのです。
時間管理のテクニックも有効ではありますが、時間をうまく管理できても、十分な集中力を持つことができなければ、よい結果は得られないでしょう。ですから、メディエーションを通じて、心と体と気持ちのつながりにもっと注意を払うことをお勧めします。
メディエーションは時間管理のテクニックを高めてくれると思います。
仕事以外の場でのスキル向上を取り上げた以前のインタビューでは、Ayadi氏が優れたテスタになるための方法として、テスト方法のゲーミフィケーション、オンラインのテスト実践コミュニティへの参加、仮想旅行などを紹介している。