アフリカ大陸におけるアジャイルの採用は、困難な課題と挫折に直面していることから、他の大陸に比較して遅れている。しかしながら、プロダクト開発における協調的アプローチがより生産的かつ価値重視の結果につながるという事実を、ハイテクスタートアップやSME、大企業が認識することによって、これからの20年間は、この若い大陸に大きな期待が持てるものになる、とAanu Gopald氏は言う。
エンタープライズアジャイルコーチであるAanu Gopald氏は、Agile Consortium Belgium 2021カンファレンスで、アフリカにおけるアジャイルの現状について講演した。
アフリカ大陸はアジャイルの採用だけでなく、その思想の受け入れの面においても、世界の他の大陸に遅れている、とGopald氏は言う。
第14回のアジャイルレポートの調査対象において、アフリカからの回答者の占める割合がわずか2パーセントである、という事実以上に、これを示す好例はありません。
この数は決して期待を抱かせるものではありませんが、その一方で、アフリカの企業やソフトウエア開発分野において、アジャイルが着実に浸透しつつあるのも無視できない事実です。
近年では、より多くの組織 — Sterling銀行、MTN、Access Bank、Flying Doctor Nigeria、Interswitchなど — がアジャイルの作業方法を取り入れたり、アジャイル移行を目指してアジャイル専門のコンサルタントを導入したりしています。南アフリカ最大の銀行であるStandard Bankは、従来型のビジネスモデルから大規模アジャイルフレームワークへと、完全な転換を達成しました。
ハイテクスタートアップやSMEや大企業は、プロダクト開発における協調的アプローチがより生産性の高い、価値重視の結果を得られることを理解している、とGopald氏は述べて、その例をいくつか紹介している。
アフリカにおけるテックハブやスタートアップの台頭は爆発的です。その数は600を越えて、さらなる増加も見込まれています。ナイジェリアひとつをとっても、Flutterwave、PiggyVest、Kuda、Paystack — ほんの一例です — といったスタートアップがディジタルイノベーションでフィンテック分野を支配しており、数百万ドルという創業資金の獲得に成功しています。E-ヘルスの分野では、54GeneやmPharmaが先陣となって、大陸全体に事業を拡大しています。これらのハブはコミュニティやビジネスのインキュベーション、製品コンセプトといった面で重要な役割を果たすと同時に、その成長がアフリカや国際的コミュニティにおけるイノベーションの火付け役を担い続けています。
スタッフ全員にアジャイルトレーニングを受講させている企業の存在や、アジャイの思想やメソッドへの認識や採用において新進的な個人を取り込むために設定された教育的プログラムの拡大によって、アジャイルの将来には期待が持てる、とGopald氏は結論付けている。
アフリカにおけるアジャイルの採用について、Aanu Gopald氏に話を聞いた。
InfoQ: アフリカが直面している課題とは、おもにどのようなものなのでしょうか?
Aanu Gopald: アフリカは世界で2番目に大きく、2番目に人口の多い大陸なのですが、世界で最も貧しく、開発の遅れている大陸でもあります。いくつかの分野で前進は見られるものの、他の大陸と比較すれば、いまだ多くの厳しい課題や挫折に苛まれています。特に目につくのは、脆弱な雇用構造や不適切な人材管理、非戦略的な意思決定と政治的不安定、不可欠な生活設備へのアクセスの欠如、水準以下の社会的およびITインフラストラクチャなどです。
昨今のディジタル改革においてアフリカが世界の他の地域に追いつくためには、これらの障害を取り除く方法を見つけなければならない、ということがより明白になっています。
進歩的な思想的指導者たちがこれらの課題について検討し、アフリカの発展問題は草の根からの取り組みにおいてのみ解決可能である、という点で合意しました。この認識を契機として、将来的なリーダ育成を目的とした周到な活動を行うプログラムや団体 — Africa Agility、Agile 42、Leantor、Agile Advisor Africa、Think Agile、Zhill Systems、Professional Agile Globalなど — が立ち上がり、革新的なディジタルソリューションによって、アフリカの経済状況を改善しようとしています。最近ではカンファレンスの数も増えており、意識の向上やトレーニングの提供、さまざまなセクタにおけるアジャイル適用の促進に寄与しています。
InfoQ: アジャイルの採用という面で、アフリカの状況はどのようなものでしょう?
Gopald: >IQ Businessの"State of Agile Africa 2020"には、アジャイルを採用している人口の大部分がスクラムを使用している、という統計が示されています。260の回答者からのサンプルによると、68パーセントがスクラム、41パーセントがかんばん、30パーセントがSAFe(Scaled Agile Framework)とプロダクトオーナシップのトレーニングに参加した経験を持っています。その中心は、プロジェクトを運用するプロセス集約的で階層的な従来手法から、協調的で人を重視し、プロダクト提供を加速化するアジャイルのアプローチへと、徐々に移行しています。これは特に、金融サービスの分野で顕著です。
他の地域と同じように、アフリカの現状は依然として、従来的なビジネスモデルと、現代的な課題に対処する術のないリーダシップコミュニティに満ちています。その他の重大な問題点としては、従来的な組織や政治文化、経営層のスポンサーシップとコミットメントの欠如、アジャイルスキルのギャップ、経営層の無関心、変革に対する組織的抵抗、などがあげられます。しかしながら、継続的な努力によって、アフリカからの独創的なソフトウェア開発ソリューションを中心とした未来を築くことは可能です。
InfoQ: アフリカ発の若い改革者やスタートアップが増えている、ということですが、それはどこで見られて、どのような影響を持つのでしょうか?
Gopald: サハラ以南のアフリカ(Sub-Saharan Africa)は世界で最も若い人口の多い地域なのですが、教育機会の充実によって、革新的な才能と起業家精神に満ち溢れた地域のひとつになっています。
21世紀を転換点として、アフリカは最も急速な経済的成長の舞台となっていて、アフリカ発の億万長者を何人も生み出しています。アフリカの若者が失業などの社会経済的問題を解決する方法のひとつが、機会に恵まれないホワイトカラーの仕事を離れて、起業家精神へと挑戦する大胆さです。それぞれが自分の国でお金を稼ぎ、投資を引き付ける新たな方法を作り出すことによって、不利な条件を克服しつつあるのです。
南アフリカのフィンテック企業であるBasalt Technology(旧称Black Beard)はアフリカ発のスタートアップのひとつで、直感的な問題解決手段としてアジャイルアプローチを使用しています。コートジボワールとセネガルに展開する研究開発型企業のYUXは、UXとHCD(Human Centered Design)手法をアジャイル開発チームと組み合わせることによって、ディジタルプロダクトやサービスを構築しています。
若者はアフリカの経済変換において最も価値のある資源であって、新たなアイデアの流入を歓迎することは、持続可能な経済を実現するための一歩です。
InfoQ: アフリカのアジャイルは今後どのようなものになるのでしょう?
Gopald: アフリカにおけるアジャイルの未来は、かつてないほど明るいと思います。アフリカの世界経済に対する影響力はこれまで以上に大きなものになっており、世界のエネルギ資源の推定15パーセント、未使用農地の60パーセントを占めています。世界経済への影響は、今後爆発的に大きくなるでしょう。
アフリカにはまだ、克服すべき大きな社会経済的問題がありますが、その発展には目を見張るものがあります。このペースが維持、改善されれば、その可能性は無限大です。
共感と価値を尊重する、人間重視のアプローチが企業組織に浸透することによって、アフリカの今後20年間は、ディジタルトランスフォーメーションとイノベーションへの期待に満ちたものになるでしょう。