パキスタンは、ハイテク分野のジェンダーインクルージョン(gender inclusion、性別による非排除)で遅れている。しかしながら、コーディングブートキャンプが女性の就業機会の獲得や、金銭的な独立を支援している。プロダクト管理の専門家でコミュニティリーダのFaiza Yousuf氏は、Agile 2021で、ジェンダーインクルージョンの推進にアジャイル原則を適用した自身の経験について講演した。アイデアのテストを実施するには、小さく始める(start small)ことが重要である。リソースが不十分でも、何かしら始められることはあるはずだ。
Yousuf氏は共同創設者のShamin Rajani氏とともに、パキスタンで女性向けコーディングブートキャンプを設立して実施する上で、アジャイルの原則を修正して使用した。アジャイル原則に対して、クライアントをステークホルダに、ソフトウェアを品質トレーニングに、ソフトウェア開発作業を定着率とコンバージョン(採用)に、といった単純な変更を行ったのだ。
ブートキャンプは参加者をハイテクエコシステムの一員にしてくれる、とYousuf氏は言う。
私たちが対象としているのは、18歳から35歳で(場合によっては40歳以上も)、低所得から中程度の所得までの、就業機会のない家族です。そういった人たちを対象に、コーディングスキルやその他のコアスキルを教育することで、ハイテクエコシステムで職を得るための支援をしています。
プログラムには2つの行動フェーズがある。フェーズ1はWebのデザインや開発で、HTML、CSS、JS、Pythonを教える。フェーズ2には複数のトラックがあり、Node、PHP、WordPress、SQA、UX、Pythonなどが含まれる。コアスキルのワークショップには金融知識、ビジネスコミュニケーション、起業スキル、職場安全、インターネットの安全、即戦力性(work readiness)、フリーランススキル、デザイン思考といったものが含まれている。
小さな目標を持った、極めて小規模なチームから始められたプログラムの全体は、基本的に一連の実験と振り返りで構成されている、とYousuf氏は説明する。
うまくいくものは続けて、うまくいかないものは破棄します。例えば、プログラムの卒業生たちが協力企業のひとつで10時間のコミュニティサービスを行い、見返りとして企業からの推薦とメンタシップを受け取るという、コミュニティサービスプログラムを始めたことがあります。テスト的に実施したのですが、あまりにも時間を要する上に、必ずしもうまくいかないことが分かりました。さらに、私たちの中核的な目標から外れているということもあったので、これは止めることにしました。
ハイテク業界におけるジェンダーインクルージョンの改善について、Faiza Yousuf氏にインタビューした。
InfoQ: あなたにとって、アジャイルの原則はどのように重要で、どのようなヒントを与えてくれるものなのですか?
Faiza Yousuf: 私がハイテク業界で働き始めた11年前から、アジャイル原則は私の労働哲学の一部になっています。シンプルで方向性が明確なので、すべての哲学の中で最も有用であり、気付きを与えてくれるのです。変化はこの世界で唯一の不変なものであり、優れたチームはビジネスにおける最大の資産です。これら2つの真実などを捉える上で、アジャイル原則には素晴らしい効用があります。
アジャイルでは、一緒に働くステークホルダたちを重視しています。これはまさしく、CodeGirlsで私たちが行っていることなのです。ステークホルダに定期的にチェックインすることは、さまざまな視点からプログラムを確認し、私たちにできることを改善する上で役に立ちます。さらに、私たちのプログラムには、重要なメトリクスが2つあります。ひとつは学生の定着率で、70パーセント近くを維持していますが、さらに改善したいと思っています。もうひとつはコンバージョン(conversion)で、私たちがハイテク産業へ送り出した卒業生の数を意味しています。トレーニングを実施した時間数やプログラムに参加した女性の数、といった無価値な数値ではなく、中核的な目標を重視しているのです。
私たちのチームは熱意を持った個人の集まりです。信念を持って、よりよい結果の実現を支援するために、期待をはるかに越える活躍をしています。クラス内監査、プログラムのフェーズ1にPythonを追加したこと、インターネットの安全性について生徒に教育することなど、私たちが実現したアイデアの多くは、チームの対話から生まれています。
InfoQ: パキスタンのハイテク業界では、ジェンダーインクルージョンはどのような状況なのでしょうか?
Yousuf: ジェンダーインクルージョンにおいても、この話題に関するデータ収集においても、大きく遅れているのが現状です。しかしながら、CodeGirlsやTechKaroなど技術トレーニングを提供するプログラム、WomenInTeckPKやPakistan Women in Computingといったアドボカシーやピアネットワークやメンタシップを提供するコミュニティ、Pakistan Software House Associationのダイバーシティおよびインクルージョン委員会からの優れたアドボカシーとアウトプットによって、状況は変わりつつあります。
私たちは先日、地元企業のジェンダーインクルージョン向上を目的とするフレームワークの、最初のドラフトをローンチしました。この"Diversity & Inclusion Framework for Pakistani IT companies"にはD&Iのビジネスケース、関連する統計情報、企業のためのアクションプラン、D&Iの目標やパフォーマンス指標の設定を支援するベンチマークツールが含まれています。適切な福利厚生プログラムの詳細や、ダイバーシティに基づく雇用慣行やインフラストラクチャ要件に関するアドバイスも追加する予定です。
InfoQ: アジャイル憲章の価値や原則を採用して、自分たちのニーズに合ったバージョンを作成していますが、それはどう役立ったのでしょうか?
Yousuf: 変更したことは、次のような形で役立っています。
- 計画を立案するのではなく、アイデアをブレインストーミングし、議論し、テスト実行することから始める、ということ。
- さまざまなバックグラウンドを持つ人たちが集まって、私たちのミッションを支援してくれました。
- チームは比較的小規模を維持しています — 3人のフルタイムを雇用していますが、創設者の3人はいずれもボランティアで、トレーナは契約ベースです。
- コミュニティサービスから始まり、プログラム全体のオンライン化、UN Equalsなどの組織との協業まで、多くのアイデアをテストしています。
- 積極的なアウトリーチプログラムを実行することで、"friends of CodeGirls"という巨大なネットワークを構築することができました。
InfoQ: ブートキャンプを継続的に改善するために、どのようなアプローチをしていますか?
Yousuf: 学生やプログラムチーム、トレーナ、雇用企業など、すべてのステークホルダから絶えずフィードバックを受け取っています。この中には、カリキュラムのレビュー(コースの概要と学習成果)、トレーナやインストラクタのフィードバック、卒業生のクオリティに関するフィードバックなどが含まれています。トレーナのパフォーマンスを測るためのクラス内監査も行っていて、プログラムの改善に役立てています。
最近では、地元や海外のアドバイザ、雇用マネージャからフィードバックを受けた後、プログラムの第1フェーズにPythonを追加しました。また、協力してくれる方々やプログラムに興味のある方々のすべてに、私たちのオリエンテーションと卒業式に参加することを勧めています。これによってステークホルダの賛同を得られると同時に、プログラムを継続的に改善するためのリソースやアドバイスを受けることができています。
InfoQ: ブートキャンプのこのプログラムを実行したことで、どんなことが分かりましたか?
Yousuf: 学んだことは、
- 透明性が次のレベルに導いてくれる、ということ。誰でも見えるようにオープンにすれば、フィードバックを得ることができます!
- 自分の影響力を、快適ゾーンの中でも外でも利用する、ということ。私は内向的な人間ですが、CodeGirlsではコミュニケーションとストラテジを担当しています。
- 変化はまずアイデアから始まり、次のステップは小さく始めて結果を確認する、ということ。
- まずは始めてください。仲間があなたを見つけてくれるでしょうから、彼らを大切にして、巻き込まなくてはなりません。私たちがCodeGirlsを始めた時はわずか3人でしたが、やがて口コミやソーシャルメディアを通じて、少しずつ地元や国際的なハイテクエコシステムに注目され始めて、コラボレーションや雇用、さらにはスポンサーシップの申し出を受けるまでになりました。
- 巧緻な計画を待つのではなく、まずは始めて、そこから学び、文書化して、取り入れましょう!
- 共同創設者がいる場合には、内部的な意思疎通を頻繁に(できれば毎日)実施しましょう。また、すべてのミーティングには時間的制限と適切なアジェンダを用意するべきです。時間を制限しないミーティングは生産性の敵でしかありません。