Covid-19のパンデミックは、特にテクノロジ分野において、多くの従業員のホームオフィスへのシフトを急速に進める機会になった。"専門家は長い間、パンデミックはやがて終わるので大きな変革にはならない、と予測してきたが"、才能ある人々と企業は、新たな働き方としてのニューノーマル(new normal)を定着させようとしている。可能になればすぐオフィスに戻ると主張する一部のリーダや、これからもフルリモートで仕事をしたいと望む一部の人たちもいるが、最も可能性が高いのは、ハイブリッドアプローチが多くの人々にとってのニューノーマルになるというものだ。
人々は雇用市場の逼迫によって自分たちの重要性が高まっていることを理解しているため、自らの生き方や働き方の改善になるものについて、企業に対して強気の交渉をするようになっている。そのため企業は、ニューノーマルと思われるものに対応すべく、それぞれのベストを尽くしているのだ。パンデミックの2年間、民間機関や公的機関において、さまざまな研究調査が行われてきた。
30,000人以上の米国民を対象に行われた全米経済研究所(National Bureau of Economic Research)による調査では、パンデミックの複数の波は、今回のリモートワークへの大規模な移行において3つの結果をもたらす、と結論付けている。第1に、従業員、特に収入の高い人たちは、在宅勤務の拡大による大きな利益を享受する。第2に、自宅作業(Work From Home、WFH)というポリシにより、市内中心部における支出が5~10パーセント低減する。第3に、雇用者の計画と相対的な生産性のデータから、5パーセントの生産性向上が見込まれる。この生産性向上の中で、従来的な生産性測定に現れるのは5分の1に過ぎない。従来の測定法では、通勤時間の削減による時間削減が把握できないからだ。
リモートワークの長期的影響を理解する目的で、全社規模でMicrosoftが実施した調査でも、これと同じような結論に達している。この調査でも生産性の向上は確認されたが、それと同時に、共同作業ネットワークによる情報の取得や従業員間の情報共有が難しくなったことが分かった。これは主として、コラボレーション網が静的かつサイロ化することと、非同期的なコミュニケーションが好まれることによって生じるものだ。
この調査には、全米のMicrosoft社員60,000人以上が参加している。一部の人々はパンデミック以前からすでにリモートで働いていたので、全社的なリモートワークによる影響を、パンデミック関連の他の交絡因子(confounding factor)から分離することが可能になった。Microsoftの研究者たちは、コラボレーションやコミュニケーションに因果関係があるものとして、2020年前半のEメールやカレンダ、インスタントメッセージ、ビデオ/オーディオコールによるリッチデータを指摘している。
過去の調査結果から、それまでのように"リッチ"ではないコミュニケーションメディアにシフトすることは、複雑な情報の伝達や処理を難しくする可能性がある、と私たちは考えています。
この調査の結果は、同社が実施した一連の社内調査によっても裏付けされている。社内調査において、同社の従業員は、会社からのインクルージョンやサポートは常に高く、生産性の面でも以前と遜色ないにも関わらず、ワークライフバランス、集中する時間、コラボレーションする時間、といったものを見つける上での苦心がある、と報告している。これはすべて、個人の環境による違いはあるが、在宅勤務とオフィスへの出社によってバランスを取ることができる。柔軟性と周囲との連帯という相反するようにも思えるニーズは、MicrosoftのCEOであるSatya Nadella氏が"大きなパラドックス(Great Paradox)"と呼んでいるものだ。同じような懸念は他の経営者も持っていて、GoFundMeのTim Cadigan氏はTime Managineの記事で、"率直に言って、私がもっと心配しているのは、人々が"仕事に戻る"といっていることが、実はそうではない、ということなのです。戻るのではありません。私たちがこれまで見てきたものとは違う、ハイブリッド作業環境を、私たちは目指しているのだと思います"、と述べている。
調査結果では、この期間中に生産性、サポート、インクルージョンが向上したことが示唆されているが、長期的には正反対の結果になる可能性もある、とMicrosoftの研究者らは結論付けている。
作業者のコラボレーションとコミュニケーションのパターンに見られた効果は、生産性に、そして長期的にはイノベーションに、影響を与えるのではないかと思います。
その一方、Tim Cadogan氏は、ハイブリッドな対話において、すべての人たちが同じ権利を持った参加者であるという"ルールの3つや4つを知らなくても"、以前のようなオフィスワークオンリーに業務が戻ることはないだろう、と考えている。振り返ってみると、リモートワークは、ハイブリッドが今後どうなるかに比べれば単純なものだった、と氏は言う。
全員が画面を持って、同じ活動の場にいたのですから。
本格的な研究と実証的な研究のいずれも、異常な環境においても従来と同じような、場合によればそれ以上の作業が可能であることを示している。そして、パンデミック中に米国内のリモートワーカ数が5パーセントから37パーセントへと急上昇したことにより、"大きなパラドックス"に対応する必要も、その重要性を増しているのだ。Satya Nadela氏は、ハイブリッド作業のパラドックスを解決することが今後10年間の企業の課題になる、と述べている。それが真実であることを示すように、TwitterやFacebook、Square、Box、Slack、Quotaなど多くのハイテク企業はすでに、長期的ないし永続的なリモートワークポリシを発表している。また一部の学者は、将来的にリモート就業とオフィス勤務の間に均衡が生じるだろう、と予測している。従業員が時間の20パーセント程度を在宅勤務で過ごすようになり、ハイブリッドワークと呼ばれることがますます多くなる、というのだ。学術的な調査と連携してソーシャルメディア上で実施された単純な賛成・反対投票でも同じような結果が出ている — 人々は柔軟性を求めているのだ。つまり、Covid-19は不安と悲惨さを我々にもたらしたと同時に、予測可能なトレンドと思われていたもの — 通勤時間の短縮をも加速させた、ということになる。