TSS(チーム一体給与)は、チームを越えた評価を行うことで、結果が自動的に調整され、スケールアップが可能になる。さらに、そのスコアを見ることで、どこに会話が必要なのかが分かる。TSSは、新たなスキルを習得し、適応することを促すのだ。
Klaus Wuestefeld氏はLean Agile Exchange 2021で、TSSについて講演した。
TSSによる評価は、チームの仲間によって、"パイを分け合う"というゼロサムのメタファを用いて行われる。チームの全員に対して、給与決定に関する直接的な発言権が与えられるのだ。TSSはアジャイルチームにおける平等な個人報酬の実現手段になる。
TSSを複数チームに拡大可能にする方法について、Wuestefeld氏は、次のように説明している。
TSSの各評価には、0から1までの確実性評価値(certainty rating)があります。これは評価者が設定するもので、同僚の仕事についてどれだけよく知っているかを示します。
少なくとも各チームの2~3人が、たとえ確実性評価値が低くても、他チームの誰かを評価可能であれば、評価の"他家受粉"によって同じTSSラウンド内の全員でひとつの予算を分け合うには十分な強さになります。すべてのチーム間で結果が自動的に"調整"されるからです。
チームがサイロに閉じこもっていて、他のチームの作業をまったく知らないような状況であれば、各チームで分割されたTSSラウンドを行う必要がある、とWuestefeld氏は言う。このような場合は、各チームの予算(パイの大きさ)は、他の給与決定プロセスを使用する場合と同じように、会社によって決められるべきである。
TSSは、新たなスキルや新たなジョブを学んで、変化を続ける企業のニーズに適応するモチベーションになる、とWuestefeld氏は説明する。
バックエンドのコーダには、フロントエンド開発を学んでほしいのです。フロントエンドのコーダには、グラフィックデザインを学んでほしいですし、その逆も然りです。全員がビジネスについて、UXについて、重要だと思うものなら何でも、学んでほしいと思います。
企業規模のTSSについて、Klaus Wuestefeld氏に話を聞いた。
InfoQ: TSSを企業規模にすることで、どのようなメリットがあるのでしょうか?
Wuestefeld: TSSでは、"バックエンド開発者"や"UXデザイナ"というように、マーケットの相場と比較可能にする目的で、人を硬直的で限定的な職務経歴に押し込む必要はありません。
真のコラボレーションが、上司へのアピールよりも重要なものになります。権力を持つことが、大きな問題ではなくなるのです。TSSの結果はすべてのサブチームの間で自然に調整されるので、補正を目的とする"調整"ミーティングは不要になります。すべての人が自律的になって、チームの境界はあいまいで、制限の少ないものになります。
InfoQ: 不正行為についてはどうでしょう?単純に自分自身や、自分の友人に高評価を与えるようなことはないのでしょうか?
Klaus Wuestefeld: TSSでは自分自身を評価しません。評価するのは同僚だけです。TSSの結果を見れば、チームによる最終評価と比較することで、最も大きな"意見の相違"を持って評価したのが誰であるかが分かります。もし2人以上のメンバが、チームとは大きく異なる意見でお互いに一致していれば、まずは彼らと話をします。
普通ならば、彼らには、チームの他のメンバと異なる意見を持つ正当な理由があるはずです。おそらくは同僚の仕事について、他のメンバが知らないことを知っているのでしょう。そういった情報を得られるのは素晴らしいことです。公平性とは、すべての人たちの視点を完璧にバランスすることで実現するものだからです。ですが、彼らが理由を明確に説明できないような場合には、お互いの評価を一切行わないように指示することもあります。不正をすれば明らかになることは分かっていますから、このようなことはめったに起こりません。
TSSの結果は、実行すべき最も重要な会話が何であるかを示しています。全員が全員と、それぞれ1対1で言葉を交わす必要があると思いません。それは時間の無駄です。チームメンバに対しては、仕事に関する"意見の相違"という指標において、(プラスおよびマイナスの)外れ値である人たちだけを呼んで、フィードバックセッションを行うように奨励しています。
ストレスや業績評価の煩わしさ、退屈なワンツーワンミーティングを回避できるTSSのメリットは、ネットワーク効果によって、企業が成長すればするほど大きなものになるのです。