テック業界で働くエンジニアにはスキル、経験、ネットワークを通じて社会的インパクトを生み出す手段がある。企業はビジネス手法を社会的に配慮したものにすることでインパクトを生み出せる。インクルーシブ・トレーニングは個人の状況や背景を考慮し、民族、性別、ニューロダイバーシティ、社会の経済的背景など幅広い層からの参加を保証するために最小限の参入障壁でサービスを提供する。
Germán Bencci氏がQCon London 2023で"社会的な責任のある企業"に関する講演を行った。
Bencci氏はソーシャルインパクトはたいていの企業が考えているようなものではない、と述べた。小さなチャリティーの寄付、1日のボランティア活動、学校での講演などである。確かに間違ってはいない、しかし企業はビジネスのやり方を社会的なものにすることに集中することで、もっと大きなインパクトを生み出すことができるはずだ、とBencci氏は言う。
私は、採用の対策、多様性の統計、設備やサービス、利益の誓約について考え、インパクトとビジネスの間に密接な関係性を作り出しているのです。
社会的インパクトを生み出すために、エンジニアと企業は最高の製品を作って最大の利益を生み出すべきだが、あわせて、製品を作る手段や、ビジネスの成功とインパクトの間に緊密な関係性を作る方法についても慎重に検討が必要だと、とBencci氏は示した。
エンジニアにはスキル、経験、ネットワークという3つのリソースがあります。1つ目は雇用や指導、倫理的なサービスの利用などを通じて社会にインパクトを与える製品を作るために活用できます。またネットワークは企業が利益の一部を社会的インパクトのある活動に寄付することを奨励するために利用することができます。
エンジニアは採用の対策、雇用目標、多様性統計などを通じて、自分たちの仕事が他と比べてどのような違いをもたらすのか、会社組織に助言できるとBencci氏は述べている。またCodeYourFuture（訳注：英国を拠点とした難民など社会的に不利な立場にある人をウェブ開発者として訓練する非営利団体）のように自分のスキルや経験を、機会の少ない人たちに共有する場を作る組織でボランティア活動ができる、と彼は説明している。
限られたリソースで最大のインパクトを生むためには、自身がリソースであることをじっくり見つめ直すことがポイントです。
Bencci氏は人々は教育や仕事を求めていると主張した。彼らはプロフェッショナルのような生活を望んでいる。仕事、社会的地位、仕事仲間、会社で働き、給料をもらい、家族を養い、子どもたちのロールモデルとなることを望んでいる。人々は社会人としてのプロフェッショナルになる機会を与えられることを望んでいる。
インクルーシブ・トレーニングとは個人の状況や背景を幅広く考慮することだとBencci氏は言う。人々が利用できる時間とお金、そして参入障壁を最小限にするためにどんなサービスを提供できるかということであり、また民族、性別、ニューロダイバーシティ、社会の経済的背景など、幅広い層からの参加を保証するために、参加者のさまざまな側面をターゲットにして追跡することだ、と言う。
Bencci氏は、CodeYourFutureの例を挙げ、研修に参加する人々の主要な統計データを紹介した。性別（40％が女性）、年齢（平均年齢は35歳、研修生の20％が40歳以上）、民族（70％以上が非ヨーロッパ系／白人）、社会経済背景（78％が貧困ライン以下で生活）、ニューロダイバーシティ（研修生の約30％が神経障害）において公平であることを明らかにしたのである。
InfoQは、Germán Bencci氏にソーシャルインパクトの創出についてインタビューした。
InfoQ：営利企業はどのような社会的インパクトを与えるか？
Germán Bencci氏：例えば、リクルートプラットフォームのCordは、過去数年間、CodeYourFutureのような社会的活動に最大1％の寄付を行い、その一方でクライアントへの自社サービスの販売にそのイニシアチブを最大限に活用しています。
自分たちのプラットフォームで採用された人がいると「自分たちの料金で、他の恵まれない背景を持つ人たちが訓練を受け、技術部門に参加できるようになった」とメッセージを送ります。
InfoQ: インクルーシブ・テクノロジー・トレーニングはどのような影響を与えるのか？
Bencci氏：失業中や低収入の仕事を続けるか、チャンスと経済的報酬に満ちたキャリアをスタートさせるかの違いです。それは人々に自立と誇り、そして自信を与えるものです。そして、その人、その家族、その周りの人たちの生活に根本的な変化をもたらします。人々は、新しい人生の可能性を信じはじめるのです。
InfoQ: ソーシャルインパクトを高めるために、企業は何をすればいいのか？
Bencci氏：社会的インパクトを重視する企業は、製品、収益性、成長を優先しながら、社会的インパクトを企業目標のひとつとする価値観や文化を創造することに集中すべきです。
ソーシャル・インパクトを実践する優れた企業は
チームの多様性をさまざまな変数で測定する
多様な採用対策を実現する
意図的なチームソーシング戦略を構築する
新しい人材に成長の機会を与える
マーケティングなどの分野での支出を見直し、倫理的な支出を確認する
組織内を含め、社会的インパクトの実践のための資金として、収益性の持続可能な割合を確保する
すぐにできることがたくさんあります。ソーシャルインパクトを生み出すのは遠い未来の話ではないのです。