InfoQ Dev Summit Munichの初回開催における基調講演でJPモルガン・チェースの上級副社長 Teena Idnani氏は量子コンピューティングの概要と「従来型」コンピューティングにおけるその不可避的な変化への備え方について講演した。その概念を解読しその利点を述べるだけでなく、彼女は「量子対応」プログラミング言語についても言及した。
Idnani氏は量子コンピューティングが従来型コンピューティングよりも単に高速であるだけでなく、根本的に異なる計算モデルであることを力説することから発表を始めた。このモデルの基礎には量子ビット(qubit)の概念があり、従来の2進ビットとは異なる「奇妙な」特性を持っている。彼女はそれらの重要性を力説する:
- 重ね合わせ-古典的な計算モデルでコインを投げる場合、表か裏(0か1)のどちらか一方の状態しか取り得ないが、一方、量子モデルでは、回転を止めてどちらの面が上を向いているか確認するまで、どちらの面にもなる可能性があると言える。この性質により、量子粒子(量子ビット)は同時に複数の状態を取ることができ、多数の経路を非常に速く探索することが可能になる。
- 量子もつれ- 2枚のコインが距離に関係なく「魔法のように」相互接続されていること。このため一方のコインに加えられた操作がもう一方のコインにも複製される。複数の量子もつれした量子ビットを持つことで、「理解を超えた」コンピューティングが可能になる。
量子ビットの特性の組み合わせが計算速度をもたらす。パラドックスは重ね合わせ状態を維持するためにはシステムを隔離する必要があるが、データを処理するためにはシステムとインタラクトする必要があるということだ。解決策は自己修正可能なフォールト・トレラント量子コンピューターを構築することである。
Idnani氏は「量子コンピューティングはAIよりもはるかに破壊的だ」と言った。複数の業界を混乱させる可能性があり、Idnani氏は特に4つの産業:製薬、金融、物流、自動車に与えるだろう影響を力説する。産業に関係なく、優れたシミュレーションと高速な計算を行うポテンシャルは私たちが考えもしなかったソリューションへの道を開くだろう。
量子コンピューティングは有望であるが、一連の課題ももたらす。もっとも差し迫った課題は暗号の分野である。現在の暗号アルゴリズムは従来型コンピューターが数学処理を実行する時間に依存している。しかし量子コンピューターの速度ではこれらのアルゴリズムは数時間で時代遅れになるだろう。ポスト量子暗号メカニズムの必要性は未来の懸念事項ではなく、現在の必要性なのだ。
量子コンピューターの実験的・学術的な側面と「実践的」なユーザー層とのギャップを埋めるために、Idnani氏は量子コンピューターの広範な利用可能性に備えて登場し始めたプログラミング言語に注目している。彼女は、IBMが量子コンピューターをクラウド経由で利用可能にしたことを指摘した。
結論として、食糧安全保障、クリーンエネルギーと気候変動、経済格差、疾病の発生、水不足などの人類が直面する最も重要な課題は、極めて複雑で膨大なスケールであることがわかる。関連するパラメーターの数が多いため、現在の計算技術では妥当な時間内に解決できないように思われる。しかし、これら差し迫った課題にイノベートし対処するために量子コンピューティングは人類最良の機会のひとつとなることが約束されている。